第29章 収穫祭の珍事
「あなたは誰っ!?」
この人は、見た目は信長様だけど信長様じゃない!
信長様は確かに意地悪で俺様でエロさも満載だけど、こんなやりたいばかりの欲望の塊ではない!(←ひどい言いよう)
「伽耶、何を言っておる」
信長様(の多分偽物)は、嫌な笑みを浮かべながらゆっくりと私に近づいて来る。
「いや、来ないでっ!」
信長様なのに、怖くて仕方がない。
「伽耶、いい加減に——」
信長様は苛立ちを露わにして私に手を伸ばしてきた。
(捕まるっ!)
恐怖で目を瞑ったその時、
「伽耶っ!」
今度は後ろから信長様の声がして、肩を掴まれ引き寄せられた。
「伽耶、大事ないか!」
「の、信長様?本物?」
前にも後ろにもイケメン彼氏がいて頭は途端に混乱する。
「何を言っておる、何故すぐに俺ではないと気付かん?」
「だ、だってあんなにそっくりでは無理です!って言うか、信長様、どうしてここに?」
確か湯浴みに行ったはずじゃ……
「俺の方にも貴様の姿をした女が現れた」
「ええっ!……もしや信長様も色仕掛けに……?」
少し乱れた着衣に、事後なのではと不安がよぎる。
「たわけ、貴様と一緒にするな。俺はすぐに見破った」
呆れ顔に本物のオレ様な信長様を感じて、しかも色仕掛けに掛からなかったと聞いてホッと胸を撫で下ろした。
「そうなんですね。……でも、どうやって分かったんですか?」
私は信長様と違って、言葉に特徴とかないと思うけど……
「ふっ、それは教えられん」
「え、余計気になるんですけど…」
楽しそうに口角を上げる信長様にエロさしか感じないのは私だけだろうか?
「くそう、失敗じゃ……」
互いの無事を確認し合っていると、信長様もどきはそう呟き、
「こんな事、今までに無かったのに……無念じゃ………」
悔しそうに私たちを睨むと、フッと、姿を消した。