第29章 収穫祭の珍事
「ふっ、貴様まさか…例の幽霊話を思い出して怖くなったのか?」
「っ………違います」
素直にそうだと言えばいいのに、図星を指され、私は強がってしまった。
「そうか。残念だが俺は厠ではない」
「えっ、じゃあどこへ?」
「湯殿だ。先に湯浴みをしてくる。貴様も一緒に来るか?」
「えっ、大丈夫です。お先にどうぞ」
お風呂は余程ではない限り頑なに断っているだけに、信長様も余り強引には誘ってこない。
「一緒に風呂に入るというのならば、厠に付き合ってやっても良いが、それでも入らんか?」
「うっ、」
(人の弱みに漬け込むなんて…)
けど、
「厠くらい一人で行けます。子どもじゃないんですから」
(ああ、この捻くれた性格、誰か直してー)
「例の幽霊に会っても騙されんようにな!」
ククッと笑い声を上げながら、信長様は湯浴みへと行ってしまった。
一人になった部屋すらも怖く感じる。
「うう、やっぱり聞かなきゃ良かった」
後悔先に立たず!
お酒の影響もありトイレがいつも以上に近く感じる私は、恐る恐る厠へと向かった。
「うわー、暗いよー怖いよー」
この時代の夜は、行燈が灯されたところ以外真っ暗でとても怖い。
お城の中はどこも不自由なく行燈が灯されていて安全が確保されているけど、普通の宿や民家などは暗いことが当たり前で、行燈は移動のみに使うことが多い。
「強がらずに素直に言えばよかった」
ビクビクしながらも目的地へ向かって歩いていると、
「伽耶」
「ひゃあっ!」
突然の声に驚くも、すぐにそれは信長様の声だと分かり、
「信長様っ、湯浴みに行ったんじゃ…」
「貴様が無事厠に行けたのかが気になってな」
(やっぱり信長様は優しい)
「あ、ありがとうございます。本当は怖くて………あっ!」
嬉しさの余り行燈をその場に置いて抱きつきに行くと、反対に強引に腕を取られて抱きしめられた。
「の、信長様?苦しいです」
「これは気に入らぬということか?ならばこれはどうだ?」
信長様は抱きしめる腕を緩めると、私の首筋へと軽く歯を立てた。
「信長様っ!っあ!」
私がこんな事になっている頃…
「信長様、もう待てない、早くきて〜」
「ふっ、大胆だな。だがそんな貴様も悪くない」
実は、湯殿での信長様も、こんな事になっていたっ!