第28章 勝利のキス
「ああ、貴様に見せたいものがあったからな」
「見せたいもの?」
「少し歩くぞ」
「あ、でもお寺の子供達が…」
あのまま会場に置いて来てしまっている。
「奴らの事ならば心配ない。元より護衛に寺へ送り届ける様伝えてある」
「そうなんですか?」
(本当に連れ出す気でいてくれたんだ…?)
「分かったのなら行くぞ」
信長様は再び私の手を取ると、お城とは逆方向へと歩き始めた。
「どこまで行くんですか?」
私の手を握ったまま信長様は花火の打ち上がる夜の城下町を歩き続ける。
「宿だ」
「宿……って、泊まるってことですか?」
思いがけない返答と急なお泊まりのお誘いに、胸は途端にドキンッと跳ねる。
「ふっ、貴様は顔だけでなく手まで熱くなるのか?」
「だ、だって……」
「向かう先は宿だが、泊まるかどうかは貴様次第だ」
「どう言う意味ですか?」
「行けば分かる」
キョトンとする私を見てふっと笑った信長様は、私を湖のほとりにある宿へと連れて来てくれた。
花火はまだ打ち上がっている。
信長様は暖簾をくぐり宿の中へ入ると草履を脱いで入って行く。
チェックインなるものはないのか?
そんなことを思いながらも信長様について行くと、ある部屋へと入った。
「ここで待て」
豪華な装飾に彩られた部屋の中央に私を置いて障子の方へ行くと、信長様は両手でスパンっと障子を開け放った。
「………っ、わぁっ、凄いっ!」
開けられた障子の先に広がるのは、提灯の灯りでライトアップされた安土城の姿。
天守閣だけではなく、城壁から本丸などを含む全ての御殿が提灯の灯りで彩られ、幻想的な様子を見せている。
「お城を提灯でライトアップ…じゃなくて、照らしたんですか?」
「ああ、この安土独自の万灯会だ」
「まんとうえ?」
初めて聞く言葉だ。
「万の灯をともして仏や菩薩 (ぼさつ) を供養する法会の事だ。寺などで行うのが一般的だが、ここでは安土城全域を使ってそれを執り行っておる」
※解釈間違ってたらすみません