第28章 勝利のキス
「あ、始まるみたいだよ」
話し込んでいる内に日も暮れて辺りは暗くなり、そんな中を火種を持った人たちが現れて、それぞれの武将の前に跪いた。
「あー、ドキドキして来た」
間も無く始まるのかと思うと心臓がドクドクする。
チラッと信長様の方を見ると、信長様も私の方を見ていて目が合った。
「……っ、」
ドキンッと、それだけで顔が熱を持ち、そんな私を見て信長様はニッと口角を上げた。
(もう、私の方がよっぽど緊張してる)
私の好きな人はこんな時でも憎らしいほどに涼しい顔をして落ち着いている。そして悔しいけどとてもカッコいい。
合図の人が手を上げると火種を持つ人が足元の手筒へと一斉に火を点けた。
シュボーーッと竹筒から火が勢いよく吹き出し、武将達はその竹筒を持ち上げて自身の片膝に乗せた。
《おおーーーっ!!》
炎が勢いよく吹き上がると、大きな歓声が起こった。
(凄いっ!あんなに火が吹き上がるんだっ!)
信長様達の花火が闇夜を明るく照らし出し、シューーーという炎の吹き上がる音がこだまする。
「熱くないのかな……」
半径一メートルは軽く越えるほどの火の粉が雨のように全ての武将達に降り注いでいるのに、誰もが涼しい顔をしてピクリとも動かない。
「なんて、幻想的な世界……」
花火の灯りと音、そして武将達の凛々しい姿に、会場にいる者全員がしばらくの間魅了された。
やがて、ボンっ!と弾ける音がして夢の世界から呼び覚まされると、先ずは三成君がニコリと笑って手筒を逆さにして地面へと置いた。
(終わったのかな…)
その音を皮切りに、ボンッボンッと、次から次へと音が鳴り、秀吉さんと家康の手筒花火が終了した。
残るは信長様と政宗と光秀さん。
(お願い、信長様……!)
手を合わせて心の中で信長様の勝利を祈る。
ボンッと、次に手筒が弾けたのは光秀さん。
ニヤッといつもの様に少し意地悪な笑みを湛え、光秀さんは自身の持っていた手筒をクルクルと回しながら地面へと置いた。
あと二人っ!
「っ…、信長様っ、頑張ってっ!!」
気付けば、信長様に向かって叫んでいた。
(あ……)
再び信長様と目が合ったその時、
ボンッ、…………ボンッと、手筒が弾けた。