第28章 勝利のキス
いよいよお祭り当日。
安土城下は朝から露店が立ち並び大賑わいを見せていた。
私はお寺の祭り会場を仕切りながら、子供たちと露店を楽しんだ。
そして日が沈み始めいよいよ花火の時間。
信長様たち武将の手筒花火は、いわゆる打ち上げ花火のオープニングセレモニーとして行われ、最後の手筒が終わり次第毎年の打ち上げ花火が打ち上がる寸法だ。
「そろそろ花火見に行こうか」
《うんっ!》
子供たちを連れて私は会場へと向かった。
信長様とは今朝朝餉を一緒に食べてから会っていないから、会場の本番で競う姿をそのまま見る事になりそうだ。
「どうか、勝ちますように」
そう願わずにはいられない。
私が会場に着くと、皆の視線が一斉に私へと向けられた。
「おおっ!主役のお出ましだっ!」
「伽耶様だ」
「信長様の寵姫様だ」
「何でも、今から行う三河伝統花火の勝者に口づけられるらしいぞ」
「信長様が勝たれない場合はどうなるんだ?」
「おい賭けようぜ」
「俺は信長様だ」
「俺は秀吉様に」
「じゃあ俺は……」
(うう…みんな好き勝手言いたい放題だわ……)
安土の民は皆お祭り好き。
こんな楽しい話を逃すわけもなく、会場内は人で溢れ返っていた。
「凄い人だね。どこから見ようか」
小さな子供たちも見られるようになるべく前の方に行きたいけど、もう前の方は凄い人だかりで(特に武将たちのファンが陣取っている)行けそうにない。
キョロキョロと空いていそうな場所を探していると、
「伽耶こっちこっち」
既に薄暗くなった会場内で遠くの顔の判別は難しいけど、声から察するにおそらく楓が前の方からピョンピョンと跳びながら私の方へ手を振ってくれている。
「楓っ!」
子供たちの手を取り楓の方へ行くと、VIP席の様に空間が空けられていた。
「ありがとう。場所取りしてくれたの?」
(子供たちの分まで…)
「何言ってるの、伽耶は今日の主役でしょ。ここは元から信長様が伽耶とお寺の子供たちにって用意して下さった場所よ」
「そうなんだ」
信長様の心遣いに胸がキュンと甘く疼いた。