第28章 勝利のキス
「大した事は聞いておらん。貴様が政宗に酒を盛ろうとした事と、光秀に俺の名を使い休暇を取らせ城に帰そうと目論んだ事くらいだ」
「しっかり全部聞いてるじゃないですか」
「何だ、これで全部とはつまらん」
「つまらん…って、打首だって脅されれば誰でもこうなります」
「貴様が打首になるのは確かに困るな」
信長様は片眉を上げて愉しげに私を腕の中へと閉じ込めた。
「もう、何でそんなにも楽しそうなんですか?私はもう少しで闇堕ちしそうだったんですからね」
「闇堕ちとはなんだ?」
「善の道を踏み外して悪の道へと行っちゃうことです」
「なるほど。して、どの様にその闇堕ちの窮地から脱したのだ?」
「それは…、城下へ行って、人々がお祭りを楽しみにしている事を知りましたし、何より信長様を信じることにしたので、覚悟が決まって阻止できたと言いますか…」
(目が覚めたと言うか…)
「ふん、貴様らしい甘っちょろい考えだな。だが悪くない」
私の片手を握って、信長様はその指先に口づけを落とした。
「だから、絶対に勝って下さいね」
「俺は負けん」
「もし負けたら、私、勝者の武将に口づけちゃいますからね」
信じるとは言っても勝敗がつくまではヤキモキしなければならないわけで、そんなヤキモキを信長様にも分かって欲しくて少し揺さぶりをかけた。
「ふっ、俺を脅すとはいい度胸だ」
グイッと顎を引かれると、オレ様な顔が迫って来た。
これはキスの合図だけど、
「ダメです。勝利のキスまではお預けです」
本当はすご〜くしたいけど、その気持ちを抑えて私は信長様の唇に自分の手を添えてそれを阻止した。
「………良かろう」
一瞬驚いて、その後訝しげな視線を私に送った信長様は、不敵な笑みを浮かべて私の袷の紐に手をかけた。
「なっ、ダメって……!」
「口づけなければ良いのであろう?」
「っ……」
(そりゃあダメじゃないけど…)
「口づけなくとも貴様は抱ける。まぁ、どのみち貴様から口づけてほしいと求めて来ると思うがな」
最高にオレ様な笑顔が私に向けられた。
「うっ、……そんな事…言いません」
「どうだか」
クスッと信長様から笑いが漏れて、私の体は褥へと倒された。
「んっ、」
私はこの後すぐに白旗を上げることになり、信長様の腕の中、甘い夜を過ごした。