第28章 勝利のキス
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「はぁ、スッキリした」
子供と遊ぶとクタクタになるけど、同時に忘れてしまっていた懐かしい気持ちを思い出させてくれる。
「このまま花火会場に行ってみようかな」
あまり勝手に出歩くと信長様に怒られるけど、手筒の会場となる場所はここからあまり遠くないから、お城へ帰る前にちょっとだけ寄る事にした。
会場へ行くと、職人っぽい人の姿が見受けられた。
もう少し近づいてみると、竹や麻ヒモを運び込んで何か作業をしているっぽい。
「あの、こんにちは。何を作ってるんですか?」
見た感じ手筒っぽいけど、でも昨日の今日でもう三河から来たの?と不思議に思い声をかけてみた。
「今度の祭りで使う手筒花火の材料を揃えているところです。…って、ああ、信長様のとこの姫様じゃないですか」
職人さんは振り返り、私を見て軽く会釈をした。
「えっと、お会いした事ありました?」
(私は初対面だと思うんだけど…)
「これは失礼を。私は家康様の御殿で家康様にお仕えする者です。姫様の事は何度か御殿でお見かけしましたもので…」
「ああ、そうなんですね。私こそ、急にお声がけをしてしまって…」
(そっか、家康の御殿にはよくお使いも兼ねて行くから、すれ違ったりしてるのかも)
「でも、御殿勤めの方が花火を作るんですか?」
(てっきり三河から応援を呼ぶと思ってたんだけど)
「手筒はその花火を上げる本人が材料集めからするのが三河では一般的なんです。だから作り方は三河男子であれは知らない者はいません。って言うと大袈裟ですけど、まぁ、つまりは三河の誇りなんです」
「ふふっ、大切な花火なんですね」
「ええ、だから家康様からこの安土で手筒花火を催すって聞いて嬉しくて、居ても立っても居られなくなりまして、三河の連中が来る前から作業を始めてしまいました」
「そうなんですね」
ワクワク…と、この男性から聞こえて来そうなほど楽しそうな顔に、またもや胸がチリリと痛んだ。
「はい。それにこの花火は元々無病息災を祈願して上げられる物なので、この安土の皆様の益々の発展と無病息災を願いながら制作させて頂きますので、当日を楽しみにしていてください」
「はい。ありがとうございます」
カラッとした爽やかな笑顔にまたもや大切な事を思い出した私は、精一杯の笑顔を作ってその場を離れた。