第27章 知らぬが仏
村の人たちと夕餉を兼ねた宴会の後は、用意された宿所へと向かった。
「今の時期はこのお部屋からホタルを見ることができますよ」
お部屋へと案内してくれた女性がそう言って障子を開けてくれた。
時間も時間だから開けられた障子の先は真っ暗だったけど、川のせせらぎが聞こえて来て、どこかしっとりとした雰囲気が伝わってくる。
「ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
案内役の方が部屋から出て行き、私と信長様は縁側へと腰を下ろした。
「ホタルが見れるなんて素敵ですね。私、見たことがないので楽しみです」
「虫が苦手なのにホタルは平気なのか?」
「ホタルは別です。光を放って飛ぶなんて幻想的で綺麗じゃないですか。……あっ、信長様見て下さいっ、ホタルいましたっ!」
「部屋の灯りも落とすか。その方がよく見える」
信長様は立ち上がり部屋の灯りを消した。
「………わぁっ!」
漆黒の闇の中、小さくて朧げな光があちらこちらに見える。
一箇所で点いたり消えたりする光や、ふわふわと夜の闇を移動する光。
「綺麗………!」
初めて見るホタルの織りなす幻想的な世界に目を奪われた。
「ホタルも水の綺麗な地にしか生息しないって聞きましたけど、この村の水は本当に綺麗なんですね」
さっき見たタガメも、ホタルも、水が汚染されてしまっては生きて行けない。(タガメは現代では絶滅危惧種)
そしてそれは人も同じ。
「この綺麗な村を守っていきたいですね」
「そうだな」
(この時代に来たことで歴史を変えてしまったのなら、良い変え方が出来たらいいな……)
「あ、でも…ホタルって何で光るんでしょうね」
(とても綺麗だし素敵だけど、どうして光るんだろう?)
「なんだ、知らんのか」
信長様は私の前に片手を付いて、触れるだけのキスを落とした。
「っ………」
(今、キスされるような質問だった!?)
目が慣れてきた暗闇の中、間近に迫った顔は艶を放っていて鼓動が大きく跳ねた。
「あ奴らが光るのはつがいを探すためだ」
「つがい?」
「奴らの一生は短い。短い時を共にする相手を探すための求愛行動だ」
「なるほど………ぁっ、」
私の腰に手を回した信長様は、私の寝間着の中へと手を滑らせ首筋に鼻先をスリスリして唇を押し当てる。