第27章 知らぬが仏
「信長様、伽耶様、ようこそいらっしゃいました」
村人達が私たちを出迎えてくれた。
「今日はお世話になります」
この村は以前お芋掘りをさせてもらった村で、あれ以来何かと視察を兼ねては信長様と立ち寄らせてもらっている。
「お二人にはここをお願いしてもよろしいでしょうか」
私たちに気を使ってくれたのか、一番奥まった田んぼを案内され、私と信長様は苗を手に水の張られた田んぼの中へと入った。
「わっ!思ったより歩きづらい!」
泥のぬかるみに足を取られて中々上手に進めない。
「手を貸せ」
先を行く信長様が手を差し伸べてくれる。
「ふふっ、ありがとうございます」
(オレ様だけど、こう言う時は本当に優しい)
「あ、オタマジャクシ!…メダカもいるっ!」
澄んだ水の中で元気に泳ぎ回るメダカ達にはしゃいでいると、ひときわ大きな生物が私の足の方に泳いで来た。
(何?あの大きい生き物…!)
黒くて細長い生き物がこっちへ来る。
(あ、あれはもしや!)
「のっ、信長様っ!ゴキブリが泳いでるっ!」
(戦後時代のゴキブリは泳ぐのかっ!?)
恐ろしすぎて、信長様の後ろに慌てて逃げた。
「は?ゴキブリ?」
信長様は呆れた顔をしながらも視線を水中へと移した。
「………ああ、これの事か?」
水中を目で追っていた信長様は繋いでいた私の手を離すと素早く水中へ手を突っ込んだ。
(もしかして捕まえるつもり!?)
怖いのに、目は信長様の手を注視してしまう。
「これはゴキブリではない。タガメだ」
「タガメ?」
ザバッと水から上げた信長様の手には、ほぼゴキブリと言っても遜色のない(タガメ好きな人ごめんなさいっ!)水中生物が……!
「ぎゃあっ!無理無理っ!あっちへやって—-っ!」
「大袈裟な奴だ。まぁタガメはカエルを喰らうからな。カエル憑きの貴様にとっては天敵か」
信長様は豪快に笑いながらタガメを水中へと逃した。
「タガメは綺麗で澄んだ水の中でしか生きられん。この水が綺麗だと言う証拠だ」
遠くを眺めながらそう言う信長様に”なるほど”と頷くけど、
「でも好きにはなれません。あんな生き物がいるなんて初めて知りました」
今朝政宗が言っていた事はこれかぁと思いながら、私はタガメの存在にビクビクしながらも、信長様と二人で田植えを楽しんだ。