第27章 知らぬが仏
「あー、ビックリしたぁ」
「それは俺のセリフだ。たかが虫であんなにも驚くやつがあるか」
「たかが虫、されど虫です!どうして見せるんですか?」
「見せたくて見せたわけじゃない。初めは変わった髪留めをしておると思って見たらタマムシだっただけだ」
「イヤーー!それは言わないでーー」
(髪に止まっていたなんて事実知りたくないよー)
「私が死ぬほど虫が嫌いって知ってるじゃないですか。次からは何も言わずに取って逃して下さいね!知らなければ幸せですから」
そうよ、夏場のゴキブリと一緒。例え近くに潜んでいたとしても、知らなければ平和なの。
「あ、でも、虫…取ってもらってありがとうございました」
取ってくれてなかったら、知らずにタマムシに触れてしまうパターンもありえた訳だから、お礼は言わないと…
「言葉などいらん、態度で示せ」
信長様はニヤリと笑って私の顔を覗き込んだ。
(態度って…これはキスしろってことだよね……)
ペコリと頭を下げて態度で示しました。なんて言ったらとんでもなくお仕置きされそうで…
「……っ、ありがとうございました」
周りに人がいない事を素早く確認して、私は信長様にお礼のキスをした。(従者の人は後ろからついて来ているので見えない。……と思いたい)
「まぁ、良いだろう。貴様の感謝の気持ち、確かに受け取った」
信長様は満足気に口角を上げた。
(うーー、オレさまめーー!)
結局いつもの手のひらの上で転がされ状態だ。
「あまり意地悪するとくすぐりますよ!」
「返り討ちに会いたいのならばやってみよ」
「嘘ですっ、冗談ですっ!」
「残念だな」
そんな事を言い合っているうちに私たちは視察先の村へと到着した。