第27章 知らぬが仏
「信長様、お待たせしました」
信長様の馬に乗せてもらい、何人かの従者と城を出発した。
「田植えするの初めてだから楽しみです」
田植え体験とかが出来るホテルに宿泊してみたいっていつも思ってたから本当に楽しみだ。
「楽しみか。それを聞いたら村人どもは喜ぶだろうな」
「信長様は田植えの経験はあるんですか?」
「尾張にいた頃はよくやっていた。戦がなければ民の仕事を手伝う事は珍しくはないからな」
「そうなんですね。じゃあ今日は色々と教えて下さいね」
「手取り足取りじっくりと教えてやる」
ぎゅっと背中越しに抱きしめられ耳にふっと息を吹きかけられた。
「っ………!」
(田植えで手取り足取りって……なにっ!)
頭の中は田植え以外の邪なイメージが広がって行く。
「耳が赤いが何を考えておる」
分かってるくせに恋人は意地悪な質問を耳元で囁く。
「……っ、イジワル……」
馬に乗せてもらうと必ずされてしまうこの意地悪なやりとりにドキドキしていると、
「……ん?何だこれは」
信長様は私を抱きしめる腕を緩めて、私の頭から何かを取った。
「貴様の髪についておったぞ」
そう言って見せられたのは、
「ぎゃあっ!」
艶々と光り輝くタマムシっ!
「イヤーー!早く逃してくださいっ!」
「おい、暴れるな落ちる」
「それよりも早くそれをどこかにやってーーー!」
馬の上と言うことも忘れて私は暴れ叫び、信長様はそんな私の体を支えながら手にしたタマムシをポイっと投げた。
「落ち着け、もう虫はおらん」
「本当に?」
疑いの目を信長様の手に向けると、
「本当だ」
信長様は手を私に見せて、もう何もいないとジェスチャーで伝えてくれた。