第27章 知らぬが仏
世の中には、知らない方が幸せだって事がある。
「政宗おはよう!」
「おっ、今朝も元気だな。これ頼むな」
朝餉の支度のため早朝の厨へとやって来た私は、政宗が私の前に置いた野菜カゴを睨んだ。
今朝の野菜は、ほうれん草にレタス(チシャ)
(うぅ…今日は何もついてませんように)
心の中でそう唱えながらカゴの中のほうれん草を手に取った。
そーーっと葉っぱの裏を見れば、やはり小さな虫が沢山ついている。
ぞわわわわーーーっと、背中に寒気を覚えながらも、それをお水につけて丁寧に取り除いて行く。
(ひやぁっ、手についたっ!やっやっ、気持ち悪いよー)
声に出して叫びたいのを必死で堪えて虫を取る。
この時代の野菜は無農薬野菜で、その無農薬野菜にはたくさん虫がついていることは、できれば知りたくなかった事で、何も知らずに出されるものを食べていただけならば、とても幸せだったのにと思う今日頃のごろ。
「なんだ、もう平気になったんじゃなかったのか?」
声には出していなくても、態度には思いっきり出ているのだろう。
こわごわと葉物をつまむ私を見て正宗は呆れたように問いかけた。
「見慣れたけど好きにはなれないしやっぱり触るのは抵抗あるよー」
この時代に来て早一年、安心して触れる野菜なんて、実はあまりない事はとうに知っている。
冬はいいだろうと安心していたら大間違いで、白菜の中は暖を取る虫たちの宝庫で、あの時は久しぶりに大声を上げたっけ。
「そういや、今日は信長様の視察について行くんだろ?」
「あ、うん。田植えのお手伝いに行くの。ほとんど終わってるみたいなんだけど、人手が足りて無い所があるみたいで…」
「お前も手伝うのか?」
「うん、もちろんだよ」
「水の中の生き物は平気なのか?」
「あー、カエルとかメダカくらいしかいないでしょ?それくらいは平気だよ」
(この時代の水は私の育った時代とは比べ物にならないくらいに澄んでて綺麗だし、変な生き物なんているわけないよ)
「へぇ、まぁ、そう思ってるならそれで良いか。楽しんで来いよ」
「うん、ありがとう」
その後、朝餉を済ませて動きやすい格好に着替えた私は、信長様との待ち合わせ場所へと急いだ。