第26章 恋仲修行 〜家康目線〜
俺の信念や、楓の決心とか、武家に生まれた者なら誰しもが持ち合わせる自尊心やわだかまりをいとも簡単に打ち崩して、伽耶は俺たちに奇跡を起こした。
こんなことを言うと伽耶は調子に乗りそうだけど、この件に関してはとても感謝している。
まぁここまで聞くと凄い女でいい話だけど、伽耶には大きな欠点がある。
それは、底抜けにお人好しだと言う事。
この戦国の世で命取りになりそうなほどお人好しな伽耶は、人を疑うことを知らない。
その為か、信長様が牽制したにも関わらず、易々と騙されて連れ去られると言う珍事件が起きた。
信長様自らが軍を率いて伽耶を救出し連れ戻したけれど、伽耶は安土に戻るなりその心労がたたったのか、熱を出して寝込んだ。
そして俺は、そんな手の掛かる伽耶の為に薬を煎じている最中だ。
「……出来たよ」
楓の前に薬を置いたけど、楓はそれをジッと見つめたまま手を出さない。
「どうしたの?」
「あ、うん………」
モジモジと、やはり薬を持って行こうとはしない。
「なに?まだ俺といたいの?」
からかってみると、
「違う違うそう言うことじゃないよっ!」
力強く否定され、それはそれで面白くなくて、もっとからかってやりたくなったけど、
「あの…これ、家康が持っていってくれない?」
言いづらそうに薬の入った湯呑みを俺の方へと押したから、からかうよりも理由が本気で知りたくなった。
「どうして?」
「あの…、今ちょうど信長様が戻って来てて…ずっと伽耶の側にいるから…その……」
ゴニョゴニョと楓は言い淀んだけど、それだけで俺には言いたい事がわかった。
「分かった。これは俺が持ってく」
「ありがとう!」
俺は薬を手に伽耶の部屋へと向かった。