第26章 恋仲修行 〜家康目線〜
泣く子も黙る、安土の魔王が恋をした。
相手は、五百年も先の未来から来たと言うふにゃふにゃした女……
名前は伽耶。
信長様を本能寺で助けたことによりこの安土に連れて来られ、あっという間に安土の一員になった。
俺は、正直言って最初は間者かと疑ったけど、そんな事を疑うことすら馬鹿らしいほどに、当の本人は隙だらけでいつの間にか疑うことをしなくなった。
伽耶は、弱いくせに負けず嫌いで、怖がりなくせに向こう見ずで直情型で涙脆いと言う、はっきり言って面倒くさい女だけど、常に冷静で冷ややかだった信長様を振り回し、心を奪うと言う大きな奇跡を起こした。
かく言う俺も、そんな伽耶が起こした奇跡に巻き込まれた一人だ。
「家康、伽耶のお薬出来た?」
物思いに耽りながら薬研をひいていると、最近伽耶の侍女になった楓がやってきた。
「楓、あと少しで出来るから待ってて」
「うん。………ふふっ」
邪魔にならない様に、でも手の届く距離に座った楓は突然笑い出した。
「何?」
「別に何も。ただ、家康と二人っきりになれて嬉しいなって思って」
「……っ、馬鹿じゃないの」
「馬鹿じゃないよ。本当に嬉しいの…んっ!」
あまりにも可愛い事を言う楓の口を一瞬塞いでやった。
「っ………」
(真っ赤になっちゃって可愛い)
朱に染まるってのは今の楓の顔のことを言うんだなと思うと笑いが込み上げた。
「どうして笑うの?」
「あんたが可愛いこと言うからだよ」
「だって…本当のこと……」
まだ俺を煽ろうとする楓の口を今度は指で塞いだ。
「それ以上喋ったら口を塞ぐだけじゃすまないから、大人しく座ってて」
「っ、……はい」
コクコクと余裕なく首を縦に振る楓とは、最近幼馴染から恋仲になった。
俺たちの仲を取り持ったのが、そのふにゃふにゃした女で、信長様が愛した女、伽耶だ。