第25章 余裕な彼
(ん?)
誰のことを言っているのだろう?と思いその声の主を探すべく頭を上げると…
(わっ、すごい人っ!)
いつのまに集まったのか、暗〜い気持ちになっている間にたくさんの人が私の前に来て視線を投げていた。
(すごい綺麗な女って…私の事?)
耳は自然とその声に聞き耳を立てる。
「ある大名の元寵姫だってよ」
(あ、やっぱり私の事……?)
「こんな女、中々拝めねぇ」
「天女のようだなぁ」
今まで生きてきてこんなにも褒められた事はなく、しかもブラック女将からは散々な言われようであったため、
(そう?私…きれい?)
自分の置かれた状況も忘れて、心の中でニヤリとしてしまった。
けど、そんなのは一瞬のことで…
「せめて髪だけでも触りてぇなぁ」
一人の男のその言葉で、自分が見せ物であり値踏みされていたことを思い出す。
私の髪を触ろうと腕を伸ばしてくる男は、ただやりたいと言う欲望の目で私を見ていて途端に恐ろしくなった。
(っ、やだっ、触られたくないっ!)
恐怖で身をすくめた時、男の手は私の髪を触る直前で空を掴んで離れて行った。
(え?)
何が起こったか分からないけど、男はいつの間にか地面に転がっている。
「いってぇっ!てめぇ何すんだ………っ!」
男がそう言って睨んだ先には……
「貴様…、その女が誰のものか分かって触れようとしておるのであろうな!」
会いたくて堪らなかった大好きな人の姿が…!
「信長様っ!」
やっぱり助けに来てくれたっ!
嬉しくて店の格子に手をかけて近づくと、
「女将を呼べっ!この女、俺が買う」
信長様は不敵な笑みを浮かべて、声高らかにそう叫んだ。