第25章 余裕な彼
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「へぇ、随分と器量の良いのを連れて来たね」
ある部屋へと入ると、女将さんと旦那さんらしき二人が座っていて、私の値踏みが始まった。
「あの織田信長の寵姫だって話だぜ?」
「へぇー、あの織田様の……、じゃあお前はもう生娘じゃあないね……?」
「…ぅっ、違います」
この時代ならではのセクハラ発言だわ…!
「年齢的にもとうがたっているねぇ」
「は?」
とうがたってるって、もう年だって言いたいの!
会社じゃまだ若手だって言うのに、この時代だともうそんな扱い?
(うぅー、セクハラ云々よりなんだかとても屈辱的だわ…)
「まぁ良いだろう。生娘でもないならすぐ実戦に移せるしね。この娘うちで引き取るよ」
「へへ、毎度あり」
私はスーパーの野菜ですかっ!と突っ込みたくなるほどに軽いやり取りの中、女衒の男は大金を手にしてさっさと消えてしまった。
「お前、名は?」
「伽耶です」
「お前、織田様の元にいたってのになんでこんな所に売られて来たのさ?」
「来たくて来たんじゃありません。連れ去られたんです」
「へぇ、そうかい。それは運が悪かったねぇ。だが逃げようなんて考えるんじゃないよ。下手な真似すれば死を味わう様な折檻が待ってるからね」
「わっ、分かってます……」
この女将も只者じゃない。
笑っているのに目の奥では私を人形の様に蔑んでいるのが分かってゾッとする。
「お前の源氏名はそうだね。若紫…いやもう若くはないからね、紫としよう」
(一言余計だと思うっ!)
「今日からお前の名前は”紫”(むらさき)だよ」
「えーーっ!」
「なんだい、何か文句があるのかい?」
「いえ、ありません」
「せいぜい着飾って若作りしておくれよ。あー、言っておくけど、着物も何もかも支払いは全てお前につくからね」
「なっ!ブラックすぎでしょ!」
「ぶらっく?なんだいそりゃ?若いモンに負けない様にしっかりと着飾って稼ぐんだよ」
「うーーー」
(だから一言一言余分なんだってば!)
かくして、散々年寄り扱いされた私は、多分私のツケで買ったであろう派手派手しい着物と髪飾りに身を包み、着いたその日に店へと出される事になった。