第4章 カエルの正体
「それは…、本能寺からこっちに来る途中やさっきも町中でそんな噂を耳にしたので…自然と私も疑ってしまったと言うか…」
嘘は言っていない。本能寺で呆然と事の成り行きを見守っている時も、さっき歩いてきた城下町の人たちの噂話でも、本能寺での事件の事で持ちきりだった。特に光秀さんのことを疑う会話がよく聞こえてきたのも事実だ。
「嘘ではないが本心は別の所にありそうだな。まぁ今はそれで納得しておく」
軽く笑みを浮かべているけど、この人を怒らせたらきっと怖いんだろうなと思った。
「あ、でも最初は疑ってましたけど今は疑ってませんよ?」
「!」
光秀さんは今度は目を見開き驚いた顔を見せた。
「美味しいお茶とお菓子を頂きましたし、光秀さんは怖い人かもしれないけど悪い人には見えませんから」
「光栄だな。ならば俺も言っておこう。お前はよほどいい育ち方をして来たのだろう。人を疑うことを知らずにな」
「ふふっ、そんな風に言ってもらえたのは初めてで嬉しいですけど、そんなに良い子でもないんです。素直に、人を疑う事なく可愛く笑って生きて来てたなら、きっと今ここにはいなかったと思います」
大地の事、私はいつも疑ってかかってた。そしてそれは疑いではなく真実へと変わったのだけれど、もっと彼の事を信じて穏やかな関係を築けていたのなら、違う未来が待っていたかもしれない。
「そうか」
(あ、今度はやわらかい笑顔だ)
「私、そろそろお暇しますね。お茶とお菓子、ご馳走様様でした。美味しかったです」
「こんな茶でいいならまた飲みに来い」
「はい。次はもう少し作法を習ってから来ますね」
「楽しみだな。それと、御館様との賭けに勝てるといいな」
「その顔、勝てるって思ってる顔に見えませんよ?」
口の端がイジワルに吊り上がってる。
「これは心外だな。御館様に勝とうなど、無謀な賭けを持ち出したお前を少しでも励ましてやろうと思ったんだが」
「もう、余計なお世話ですっ!お邪魔しましたっ!」
結局最後は嫌味を頂戴したけど、光秀さんはきっと本能寺の犯人じゃないと確信を持てた私は、ここに来た時よりもスッキリした気分で御殿を後にし町に出た。