第4章 カエルの正体
「それに私…全然作法を知らなくて」
「気にするな、好きに飲め」
(好きにと言っても、限度はなくないですか?えっと…、3回回すんだっけ?でもどこから?飲む前?後?いつ!?)
薄〜い知識が頭の中をグルグルと駆け回る。
「ククッ、そのまま何も考えずに飲め。それが一番美味いぞ?」
「……すみません。では遠慮なく頂きます」
全く分からないし、何回回すのかも分からないからそのままゴクゴクとお茶を飲み干した。
「あ、美味しい!この苦味、堪んないかも」
苦い物であることは知っていたし飲んだことも何度かあるけど、こんなに美味しかったっけ?嫌な苦味じゃないし、むしろ癖になる苦味だ。
「良い飲みっぷりだな。ほら茶請けの菓子も食べろ」
可愛いサイズの和菓子をスッと目の前に出され、甘いものに目のない私はサクッと竹串〔本当は黒文字と言う〕を指して一口でパクッと食べた。
「あ、美味しいっ!」
失礼とは思うけど、この時代のスイーツにあまり期待をしていなかっただけに、上品な甘味のお茶菓子に感動してしまった。
「何も疑わないんだな」
「え?」
「いや、何でもない。お前を疑う事がバカらしくなってな」
言ってる意味はよく分からなかったけど、光秀さんの鋭い眼差しが少し優しくなった。
「私の事、少しでも信じてもらえたなら嬉しいです。実を言うと私も光秀さんの事を少し疑ってましたから」
「ほう、俺の何を疑っていたのかを是非とも聞かせてもらおうか?」
和やかになりつつあった空気が一瞬でピリッと変わった。
(しまった!調子に乗りすぎた…?)
なんとかうまく誤魔化せる内容を考えたけど、すぐに無理だと観念し、私は思ってることを口に出す事にした。
「私、光秀さんは私を本能寺の犯人に仕立て上げて自分は逃げるつもりなんじゃないかって、思ってたんです」
「いきなりだな。つまりお前は、俺を本能寺で御館様を襲った犯人だと思ってるって事だな?」
「はい…」
「それはなぜかを聞かせてくれるか?」
言い方は優しいけど目は怖い。言わなければわかってるよな?と言っているみたいだ。