第25章 余裕な彼
久しぶりに感じるこの時代の恐怖。
信長様に守られて生きていたのだと、こんな時に実感するなんて…
「分かればいい。おいっ!」
満足げな笑みを浮かべ、男はドアの外に声をかけた。
「はっ!」
屈強な男が来て私の手と足の縄を解くと、代わりにおもりの着いた枷を足にはめた。
「なっ、何する気っ!」
「売るんだよ」
「えっ、何を……?」
(売れるような物は着物以外何身につけてないけど……)
「簡単に攫うことが出来たって聞いてたが、どうやら本当の事らしいな。ここまでお花畑な奴もそうそういねぇな」
人を小馬鹿にした笑いにさすがにカチンと来た!
「っ名前すら知らない人の言葉が理解なんてできるわけないでしょ!言っときますけど、急にこんな所に連れてこられてお金になるものなんて何も持ってませんからっ!残念でしたっ!」
(………っ、言ってやったっ!)
怖かったけど、言った後は胸のつかえが取れたようにスッキリした。
のも束の間……
「そう言えば紹介がまだだったな。俺は毛利元就。お前の男、織田信長を殺す男だ。宜しくなお姫さん」
「………えっ!」
(毛利元就って…死んだと思われてたけど生きてたってあの大名!?)
どうやら、とんでもない男に捕まってしまったことが判明!
(ヤバい、ヤバいじゃん!)
それにしても武将って…本当にイケメンしかなれないんじゃ…?
安土の武将達もいろんなタイプのイケメンだけど、毛利元就は危険なイケメンだ。
「こんな小うるさくて頭の弱い女が好みとは、信長も大した事ねぇな」
「なっ!信長様に失礼っ!」
(そして私にも失礼っ!)
「おい、あれ持ってこいっ!」
毛利元就の命令で、家臣らしき男は手に首輪を持って現れた。
嫌な予感……
後退りする間も無く腕を掴まれると、次に首を掴まれた。
「痛いっ!やめてっ!何するのっ!」
男の力に敵うわけもなく、ガチャっと首にそれを嵌められた。
「…っ、」
「はんっ、ワンワンうるさいお前にはピッタリだな」
「最悪……」
首には、僅かに指一本入るくらいの鉄製の首輪と、鎖が付いている!
「外してっ!何のためにこんな事っ!」
「言ったろ?売るって……」
舌舐めずりをして笑う毛利元就に、私は漸く売るものが私自身なのだという事に気づいた。