第25章 余裕な彼
コツコツコツ…
波に揺られながらも両手足の縄を外そうと足掻いていると、こっちに近づいてくる足音が聞こえて来た。
(誰か来る!?)
攫われ閉じ込められている事自体が恐怖なのに、人が来るかもしれないと言うのはこれから何をされるのかが分からず、そしてそれは決して楽しい事ではなく死ぬかもしれないと言う恐怖も共に連れて来るもので…
自分の人生、決して大罪は犯していないはずなのに、気持ちは死刑執行をされる直前の心境に近いと思うほどの強烈な恐怖感がどっと押し寄せてくる。
ガチャッ!
「!」
見えないって恐怖が倍増する!
「…たく、どいつだよ目隠しなんてしやがった野郎は…….」
足音の主は忌々しそうにそう言いながら私に近づき、私の目隠しを乱暴に剥ぎ取った。
「っん……っ!」
「こう言うのは怯えた顔を見るのが楽しいってのに…なぁ、お姫(ひい)さん?」
「っ………!」
私を見下ろすのは、信長様によく似た真紅の目の男。
小麦色の肌に綺麗な銀髪が映えるイケメンなのに、私のこの状況を愉しげに見下す目には狂気の光が見え隠れし、話は通じないと私の勘が伝えて来る。
「お前信長の女だろ?」
男は膝をつくと、手袋をはめた白い手で私の顎を持ち上げ顔を近づけた。
「何だ、口がきけねぇのか?って、ああ…こんなのされてちゃあ聞ける口も聞けねぇな」
浅黒イケメンはクックックッと笑いながら、今度は乱暴に私の口の縄を取っ払った。
「っ!」
「これで口もきけんだろ、質問に答えろっ!」
「っ………」
(怖いっ!完全に怖い世界の住人じゃんっ!)
オラオラな態度に気持ちは怯むけれど、
(でも、こう言う時はなめられたら負けなはず!信長様の恋仲として毅然とした態度でいなければ!)
「お、大きな声を出さなくても聞こえてます。怒鳴らないでっ!」
負けてはいけないと思い少しだけ強気に出てみた。
「ああっ、テメェ殺されテェのか?」
「っ……ど、怒鳴らないで…くだ…さい」
(うわーん無理無理っ!怖いっ!)
「先に言っとくが、足をちょん切られたくなかったら逃げようだなんて思うなよ。こちとら生きてさえいれば良いんだ。この意味分かるよな!」
「は、はいっ!」
(足チョンとか怖すぎるって!)