第25章 余裕な彼
「案ずるな。織田は精鋭揃いだ。戦になっても負けることはない」
力強く言い切る信長様を信じてない訳じゃない。
「……っ、でも、案じます。案じて案じて案じていますっ!それ位しか出来ないから、それ位はさせて下さい」
織田軍が強いって分かってる。でも強くても怪我をしないとは言い切れない。だから、案ずるなと言われて「はい」なんて言えない。
「それでも案ずるなと言っておる」
「だから無理です。出来ません」
「出来る、案ずるでない」
「出来ませんっ!」
暫し見つめ(睨み)合い……
「ふっ、跳ねっ返りめ」
信長様が先に口元を緩め、私の唇を掠める程度に奪った。
「っ、こんな事で誤魔化されません」
完全に誤魔化され、嬉しくて緩む口元を結んでなんとか耐える。
「誤魔化しておるわけではない、愛らしく尖らせたその口を食べたくなっただけだ」
「っ………!」
(やられたっ!)
そんな笑顔でそんな言葉…こんなの勝てるわけがない。
「うーー、参りました……」
戦力を削がれた私は目を閉じて愛しい人と唇を重ねる。
こんな日々が幸せすぎて、余計に不安になる。
この温もりをもう手放すことなんて出来ないって分かっているから……
「俺にとって一番難しいのは、戦でも朝廷でもなく貴様の機嫌を取ることだ」
唇をわずかに離して信長様は意地悪く囁いた。
「嘘つき……」
こうやって簡単に私を手玉に取るくせに……
「嘘ではない。軍議の最中にあらぬ想像で叫び出すほど貴様を欲求不満にさせていたとは、気になって今宵は眠れそうもない」
愉しそうに口角を上げニヤリと笑う信長様…
「なっ!」
(ここへ来てさっきの追求っ!)
「眠れないのはいつものことなんじゃ…」
嫌な予感がして私は一歩後ずさる。
「そんな事は聞いておらん。あの軍議の時、一体何を考えておった?」
そして信長様はすかさずその間合いを詰めた。