第25章 余裕な彼
その後の軍議は真剣そのものだった。
帰蝶の出現と同時に、死んだものとされていた毛利元就が生きていて、どうも帰蝶と手を組んだらしいと言う事。
その帰蝶が館長を務める商館には武器が日々運び込まれ、戦支度が行われているから戦は最早避けられないと言う事。
それに伴い現在は織田、上杉武田、顕如一派、三つの勢力が拮抗し無風状態が保たれていた所に漬け込む者たちが現れ、各地で小競り合いが起き始めているという事。
そしてこの三者の均衡が綻べば、今の平穏も一気に崩れてしまうと言った恐ろしい内容が次々と話し合われていく。
(この間湖に連れて行ってもらった時に信長様が言っていた通り、西の方ではいつ大戦が始まってもおかしくない状況なんだ……!)
あまりの事態に言葉は出ず、ただ息を呑んで皆の話に耳を傾けた。
日ノ本全土を巻き込んだ争いが起きる前に手を打とうと、先ずは上杉武田に停戦と一時的な協力体制を求める事となり、引き続き堺の動きを探りいつでも応戦できるよう備える事が決定した。
・・・・・
軍議終了後、信長様は秀吉さんと光秀さんと何かを話し込んでいた為、私は先に信長様の部屋を訪れていた。
天主からは、夕暮れに染まる安土の町と湖が見下ろせる。
「きれい……」
これから戦が始まるかもしれないなんて思えない程に穏やかだ。
「伽耶、待たせたな」
廻縁に出て風に吹かれていると、信長様が戻って来た。
「信長様」
振り返ればいつも通りオレ様な笑みを浮かべる信長様に、ザワザワした心は少しだけ落ち着きを取り戻す。
「あまり体を冷やすと風邪をひく。中へ入れ」
自身の羽織を脱いで私の肩に掛け部屋の中へと促された。
「信長様……」
たまらなくなってぎゅっと抱きつけば、それに応えるように優しく腕の中に閉じ込められる。
この温もりを絶対に無くしたくないっ!
「ふっ、俺を絞め殺す気か?」
不安な気持ちが信長様を抱きしめる腕に強く出てしまい、力の限りに抱きついていた。
「っあ、ごめんなさい」
キツく抱きしめていた腕をパッと離すと、その腕をやんわりと握られた。