第24章 エゴサーチ
信長様の甘〜い誘惑から逃げるように走って城下へとやって来た私は、ちゃっかりとお目当ての唐物屋へ行き着いていた。
「こう言う時、結構冷静だよね。私…」
一緒にお出かけできなくて心の中で泣きながら来た割には、しっかりと目的地へやって来た自分に感心してしまう。
でも今日はどうしてもこのお店に来たかったから…
「よし、気持ちを切り替えようっ!」
仕事は仕事、恋は恋っ!
家も仕事場も恋人と会う場所も…全てが安土城の中という特殊な状況の中で、公私混同をするなと言う方が無理はあるけれども、それでも切り替えは大事!
(信長様はちゃんと切り替え出来てるし……いや、急にキスして来たりするから出来てないのか?謎だ……)
「ごめんください」
心を仕事モードへと切り替えてお店の暖簾をくぐった。
この唐物屋さんは最近出来たお店で、海外からの品や国内でも中々お目にかかれない貴重な反物を扱っていて見るだけでも価値のある楽しいお店だ。
「わぁっ!新作沢山入ってる!」
週一ペースで新作が入るこのお店では、いつもたくさんの人で賑わっているから、商品の回転も早い。
「今日は巡り会えそう」
今頂いている仕事の一つに、大店の娘さんの花嫁衣装を仕立てる仕事があって、通常は反物を一緒に持ち込みが多い中、今回の依頼は反物も私が思う素敵な物を見繕って欲しいと言われていたから、何としてでも素敵な物を探して差し上げたかった。
「ああ、伽耶様いらっしゃいませ。沢山入って来ておりますのでゆっくりご覧下さいませ」
店の主人が私に気付き頭を下げる。
「ご主人ありがとうございます。お言葉に甘えて、ゆっくり見させてもらいます」
事前に伝えておいたイメージに近い反物が何点か置かれている場所へと行き腰を下ろした。
「あ、これ素敵。……これも良いかも」
反物を一点ずつ手に取り見ていると、
「ご主人、この棚の器を端から端まで全部頂戴」
豪快な買い方をする人の声が……!
(えっ、なにっ!なんか凄い人がいる……っ?)
信長様以外にもそんな買い方をする人がいるのかと思い、声のする方へ視線を移すと、絵巻物から飛び出て来た様な美人な男性がいた。