第23章 今川の姫
「楓さんお願いします。私の教育係兼相談役になって下さい。あっ、あと、お友達にも!」
「伽耶様………こんな私で良ければ、宜しくお願いします。精一杯、伽耶様に務めさせていただきます」
楓さんは涙を流し、そして深く頭を下げた。
「伽耶、今川の姫から色々と教えてもらえ。特にしおらしさとかな……」
信長様はそう言って私を意地悪な目で見た。
「うーー、しおらしい私が好きでしたっけ?」
「いや、跳ねっ返りで目の離せん貴様を気に入っておる」
チュッと、イタズラなキス…
「これでは不満か?」
もう絶対に勝てる気がしない!
「……っ、大満足です」
みんながいる事を忘れて信長様に抱きついた。
そして、
「後は貴様に任せた」と信長様は家康に言って、私たちは遊女屋を後にした。
・・・・・・・・・・
「何なんだあの二人は……」
部屋に楓と二人残された家康は、喜びや戸惑い、悔しさや完敗した清々しさがないまぜになった気持ちで呟いた。
「良い方々に囲まれて過ごしていらっしゃるのですね」
楓は誰も手をつけなかったお酒の入ったお銚子を手に取り盃へ注ぐとそれを家康に渡した。
「あの二人には振り回されてばっかりだけどね…」
渡された盃を家康は一気に飲み干した。
「お酒…強くなったのですね」
そう言って空になった盃にお酒を注ごうとする楓からお銚子を取り、家康は楓の手を取った。
「あんたの涙を見た日から酔えなくなったんだよ」
「え?」
「酒を飲むたびあんたの泣き顔を思い出すから酔えなくなった……」
「家康…様……」
「家康で良い。昔はそう呼んでたでしょ」
「いえ…やす……?」
「そう。楓、あんたの手は今も冷たいままだね」
「でも、お酒に酔わなくなったのでしたら、この手の使い道、なくなっちゃいましたね」
「敬語もいらない。それに使い道はあるよ」
「え?」
「きっとこれからはお酒に酔いそうだから、その時はまた冷やしてよね」
「家康………」
この後城へと戻って来た二人がみんなから揶揄われたのは言うまでもない。