第23章 今川の姫
皆一斉にその音に振り向いた。
「その女は俺がもらう。女将を呼べっ!」
「「「え?」」」
廊下に向かって叫ぶ信長様に、全員が同じ驚きの声を上げた。
「信長様……?」
突然の言葉に理解ができず信長様の袖を引っ張り見れば、
「案ずるな、悪いようにはせん」
そう言って目を細め優しい笑みを浮かべると、私の目尻に溜まった涙を拭ってくれた。
「!」
自分でも気が付かないういちに泣いていたらしい。
「貴様が泣いてどうする」
頬に残った涙の跡も信長様が拭ってくれていると、女将がやって来た。
「信長様お呼びでしょうか」
「女将、この者城へ連れ帰る。そのように準備いたせ」
居住まいを正し頭を下げる女将に信長様は直球を投げた。
「恐れながら、その者は莫大な借金を背負って売られて参りました。しかも良家の出で器量良しで、これからこの店で高値で売られる娘です。決して安くはございませんが……」
信長様も信長様なら女将もやり手の商売人、負けてはいない。
「貴様の言い値で構わん、いくらだ」
そして毎度のことながらこの気持ちのよさ!
「それ程にこの者がお気に召したのでございますか?」
「俺ではない。こやつが涙を流してまでこの者を欲しておるのでな。我が寵姫の願い聞かぬわけにはいかぬ」
信長様はそう言って私を見た。
(どうしよう…本当にカッコいい)
多分、女好きな姫なんだと言う誤解を受けたとは思うけどもうどうでもいい!
「そうですか……」
女将は泣き顔の、でも信長様にうっとりとしている私を確認して暫く考えると…
「かしこまりました。高値をつけさせて頂きますわ」
にっこりと笑い、「用意致します」と言って部屋を出て行った。
「信長様、その身請け金、俺に払わせて下さい」
女将がいなくなり、家康は信長様に頭をついた。
「貴様が払ってどうする?その女を妻に迎え幸せにするとでも言いたいのか?」
「それは……」
家康は言葉に詰まってしまう。家康の背負っているもの…それはきっと生涯背負い続けると決めたもので、簡単に決断できることではないんだろう……