第23章 今川の姫
「う、嘘っ!そんな自分からなんて…」
「ここに来る女は大抵は二種類に分かれます。初めて客を取る日まで泣いて怯えて暮らすか、早く諦めをつけようと、覚悟を決めてその日を早めてしがらみと決別するかです。彼女は後者だった。それだけのことですわ」
そう言ってまたニッコリと笑った。
「うーーーー」
人生百戦錬磨みたいな女将さんに勝てる気のしない私は、ただただ信長様の後ろからうなるしかない。
「女将、その女、今宵俺が買う」
信長様の一言で、周りがまたざわめいた。
「まぁ、伽耶様の前でそのような事、よろしいので?」
女将はわざとらしく大きな声で聞き返した。
「信長様が買われるそうだ」
「伽耶様がおられる前で何と大胆な…」
そのせいでヒソヒソとそんな声が聞こえてくる。
「こやつと二人の夜も良いがたまには趣向を凝らそうと思ってな。無論こやつも一緒に三人で楽しみたい」
信長様はそう言うと私の腰に手を回して抱き寄せた。
(なっ、何ですとっ!?)
「信長様っ、何を言って……!」
三人で楽しむって、そんな言い方誤解されちゃう!
「まぁ、そう言う事でしたなら少し広めの部屋を用意させましょう。どうぞ中へ」
女将はそう言うと先に店の中へと消えて行った。
「おい、聞いたか?」
「ああ、複数でって事だろう?」
「伽耶様がそんな事なさるとは、人は見た目では分からんもんだな」
「高貴な方の趣味は分からんもんだ」
「驚いたな」
(違うっ、みんな違うのっ!誤解なのっ!)
「信長様っ!」
恨めしそうに信長様を見ると、にやーーっと口角をあげて嫌な笑いを浮かべている。
「……っ、もしかして、わざと?」
「ふっ、昨日から散々な仕打ちをされておるのだ。これくらいの仕返しはさせろ」
(やられたっ!)
「でも信長様だって誤解されましたよ?」
(複数プレイを楽しむ城主だって思われちゃったのに?)
「今更、噂の一つや二つ増えたところで気にならん」
(さすが、第六天魔王!)
「うーー、私は気にしますーーーっ!」
「もう遅い諦めろ。ほら行くぞ」
好奇の目で見られる中、愉しげな信長様に手を引かれ私は遊女屋の中へと入って行った。