第23章 今川の姫
馬を降り遊女屋へと行くと、店先にたくさんの人だかりができていた。
「何だか賑わってますね…?」
「初見世のようだな」
「初見世?」
「遊女が初めて客を取る事だ。店先に顔出しをするからその姿を一目見ようと人が集まる」
「よく…知ってるんですね」
躊躇う事なくスラスラと答える信長様についついトゲのある言い方をしてしまう。
「こんな事は一般常識だ」
「そうなんですか?」
「口を尖らしてる場合ではないぞ、顔見せの女…貴様の言っている女ではないのか?」
「え、そんなはずは…」
だって昨日の今日でお店に出るなんて事はしないって女将さんが言ってたのに……
「どう言う事!?」
信長様の言う通り、人だかりを作っているのは間違いなく楓さんだ!
「何で………?」
って、驚いてる場合じゃない!
「のっ、信長様っ!あれって、あれですか……!」
「ああ、間も無く誰かに買われる事になるな」
今の問いかけで良く分かってくれたなと思いながらも返ってきた返事に愕然とする。
(そんな!そんなことさせないっ!)
「信長様っ!早く行って!」
「はっ!?」
「早くっ!彼女が誰かに取られないうちに指名して下さいっ!」
「なっ、貴様っ!あれ程日頃は俺の遊女屋遊びに目を吊り上げておるくせに何を…っ!」
「つべこべ言わずに早くっ!」
信長様の袖を掴んで前に行くように引っ張った。
「貴様、後でどうなるか分かっておるな……っ!」
ものすごい睨みが私に一瞬落ちて、
「貴様も来い」
手を繋がれ一緒に人だかりの方へと向かった。
(こ、これは後でお仕置き確定って事だ!)
プルルっと身震いしている間にも、信長様は遊女屋へ近づいて行く。
彼女の方を見てザワザワしていた人々が、今度は信長様の姿を見てざわめき始めた。
「信長様だ」
「伽耶様も一緒だ」
「信長様だ!」
そんな声が聞こえてくる。
「まぁ信長様、伽耶様ようこそおいで下さいました」
女将さんだ!
(どうして楓さんがお店に出てるの!嘘つきー!)
と心の中で唱えながら信長様の後ろに隠れて密かに睨んだ。
「言っておきますが、店に出たのは私の意思ではなく彼女の意思ですわ」
ささやかな私の睨みに気づいた女将さんは、私ににっこりと微笑んでそう言った。