第23章 今川の姫
「え、もう夕餉の時刻ですか?」
そんなに長いこと考えてたんだ…
「如何した?貴様が飯を忘れるなど余程のことだな…」
信長様は私の前に膝をついてしゃがみ込み、私の額と信長様の額を合わせた。
「えっ、…なっ……!」
綺麗な顔が急に目の前に来るのは心臓に悪い…
「熱はないようだが、顔が赤いな」
「 っ、それは…」
信長様の顔が目の前にあるから…っ!
「どうした?耳まで赤くして…」
そう聞く信長様の口の端は、さもおかしそうに吊り上がっている。
「うーーー、信長様、からかってますね…」
私がドキドキしてるって絶対に気づいてるっ!
「貴様の恥じらう顔は中々に唆られるからな」
イタズラな顔は私の唇を掠め取る。
「……っ、」
私の反応を楽しみ出した信長様は顔中にキスを落とす。
「んっ、針…刺さっちゃいますよ…」
針仕事中だったから、手に針を持ったままだ。
「その針仕事もあまり進んではおらんようだったが何を考えておった?」
私の手からやんわりと針を取って針山へと刺した信長様は、私を膝の上に乗せた。
やっぱり、私が悩んでる事はお見通しなんだ……
「あの…お金がなくて……」
そして私は、話す順序を大きく間違えて説明を始めた。
「は?」
「あ、いや、その…ちょっと大金が必要で、どうしようかと悩んでて…」
「何か欲しいものでもあるのか?」
「欲しい物と言うか人と言うか…」
「人?……もしや貴様、若衆に貢ごうとしておるわけではあるまいな!」
「わ、若衆って……!」
遊女の男の人版だよね!?
「そっ、そんなわけないじゃないですかっ!私が言ってるのは女の人ですっ!」
「は?女を…?」
その驚いた目、絶対に誤解してる!
何でいつも、間違った方に解釈するのっ!?
「違いますよっ!私が女の人を買いたい訳ではなくて、救いたいって思ってるんですっ!」
「どう言う意味だ……?」
「実は……」
私は今朝からの事を次は順を追って信長様に説明した。
「……だから、早くしないと彼女がお店に出されちゃうからどうしようかと思って…」
「なる程……だが、此度の事は貴様の出る幕ではない」
てっきり助けてくれると思った信長様の反応はまさかの逆だった。