第23章 今川の姫
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「おい家康、もう酔っ払ったのか?」
「こいつ、本当に酒に弱いよな」
人質として今川屋敷にいた俺は、今川の奴らにとって格好の揶揄いと虐めの餌食だった。
「 っ煩い、酔ってなんか……うぇっ」
気持ち悪さが一気に込み上げた俺は口を押さえて広間を出て縁側へ行き全てを吐き出した。
「きったねぇな家康、そんなだからお前の三河は弱小なんだ」
「その通りだな、酒も一人前に飲めぬとは三河の民も嘆いておるぞ」
「おいおいそんな事言ってやるなよ、なんたって幼子だったこいつをよこすほどの弱小国なんだ。もう諦めてるだろ」
「違いねぇ」
あはははは……
声高らかに笑いながら、奴らはその場から去って行く。
今よりも若かった俺は、覚えたての酒を毎晩奴らに飲まされては潰されていた。
「……っ、くっそ」
クラクラする頭を上げて縁側に寝転がる。
今川と言うお家に胡座をかいて威張り散らす奴らの所業には反吐が出る。
だけど…
「弱い自分が一番嫌いだ……」
嫌ならば言い返せば良い。なのに俺にはそれだけの力も度胸もなければ酒にも強くなれない…
「くそ………」
徐々に痛みを増して行く頭痛に頭を抱えて寝転んでいると…
「大丈夫?」
ヒヤリと、頭に冷たい手拭いの感触がした……
「楓?」
「今日もあの人達にひどく飲まされたの?」
口元が吐いた後の汚物で汚れていてのだろう、だけど楓はそんな事気にもとめず俺の口元をその手拭いで拭った。
「……っ、ほっといてよ」
「それは、構ってよって意味だよね?」
「……っ、違うから……」
「はいはい、これは私が勝手にしたくてしてる事だから、家康は気にしないで」
そう言って彼女は、白くて冷たい手を俺の頬に添えた。
(気持ちいい……)
「気持ちいいでしょ?」
俺の心を読んだように楓は指摘する。
「少しだけね…あんたの手、何でいつもそんなに冷たいわけ?」
「家康の酔いを覚ましてあげるためでしょ?」
楓はそう言ってニコッと笑う。
「っ、バカじゃないの……」
「もう、素直じゃないなー」
頬を膨らませ怒り笑いをする楓は、この地獄のような今川屋敷の中で俺の唯一の救いで癒しだった。