第23章 今川の姫
お城へ戻ると家康はすでに御殿へ帰ってしまったと聞き、そのまま急いで家康の御殿を訪ねた。
「……別に、俺には関係ない」
家康の部屋へ行きさっきのことを話すと、家康からは予想外の答えが返って来た。
「……え、何で?だって彼女とはその……」
「なに?誰かから何か聞いたわけ?」
「何も聞いてないけど…恋仲だったんじゃないかって……」
そうじゃないってこと……?
「はぁー、何勘違いしてるか知らないけど、あの子と俺は恋仲なんて関係じゃないから」
「違うの?」
「違うよ」
家康は面倒くさそうな顔をして薬棚へと行き薬壺をいくつか手に取った。
「で、でもさっき二人とも知り合いって雰囲気出してたし、」
「あの子は、今川の姫で俺の許嫁になる予定だった子だけど、結局はならなかったってだけの関係!」
私の追求に半ばキレ気味でそう言うと、苛立ちをぶつけるように薬壺をドンっと床に置いた。
「許嫁って…恋仲以上の関係だったって事でしょ?」
恋人通り越して、結婚の約束をした婚約者じゃん!
「あんたが思ってるようなそんな関係じゃない!あんたも知ってるんでしょ!俺が今川の人質だったってこと…」
「う、うん」
「なら分かるでしょ、どう言う意味の許嫁だったかって……」
「家康………」
「分かったのなら帰ってくれる、忙しいから…」
家康は座って薬研を挽き始め、私がいないかのようにこっちを向くことはなかった。
色々と情報不足だ。しかも家康の辛い過去が関わってる。けど…決められた許嫁だったとしても、あの時の二人には何か深いものを感じたのは気のせいなんだろうか…
「突然きてごめんね。じゃあ帰るね……」
これ以上家康の過去について触れる気にはなれず、私は家康の部屋を後にした。
伽耶が部屋を去った後、家康は薬研を引く手を止めて視線を遠くへ投げた。