第23章 今川の姫
「それを聞いて、伽耶様はどうなさるおつもりですか?」
「え……?」
女将は静かに、けれども語気を鋭くして私に質問を投げかけた。
「その者がこの店で客を取り身を売ると私が言えば、伽耶様がその者を身請けして下さるのですか?」
「それは…」
身請け金は、とてつもないお金が必要だと言う事は知っている。
「もし伽耶様のご推測通り、彼女と伽耶様のお知り合いの殿方との間に、過去に色恋沙汰があったとして、それが何になりましょう?好きだった男に自分がこれから身を売る所を知られて正気でいられる女などおりません。全ての女が皆伽耶様のように天下人である方からのご寵愛を受けて何不自由なく暮らせるわけではありません!」
「………っ」
その通り過ぎて言葉に詰まった。
私は本当に恵まれている。最初こそ強引で恐怖を感じたこともあったけど、信長様はずっと私と言う人間を尊重して、付き合ってからもそれは変わらなくて…
「… っ、ごめんなさい………」
平和ボケにも程がある。
人の気持ちも考えずにこんな事…
でも…、家康のあの時の態度、様子を見逃してはいけない気がしているのも事実で…、
「伽耶様、申し訳ありませんが、お引き取り願えますか?」
女将は今度はニッコリと、でも綺麗な手を出口の方へ向けた。
「……はい。お忙しい中、お邪魔しました。でも私…」
やっぱりこのまま引き下がれないっ!
「伽耶様、本日この店に入った娘は今後この店で遊女として働くこととなります」
「っ、……!」
「ですが、今日来ていきなり今夜明日に客を取らせる程私共も鬼ではありません」
「………?」
(何が言いたいんだろう……?)
「ただし、五日〜七日の間には店に出すつもりです。それまでにもし私共を納得させられる回答が得られるのでしたら、再度お越し下さいませ」
女将は今度は優しい笑みを浮かべ、そして頭を下げた。
(……あ、そう言うことっ!?)
五日〜七日、女将は多分私に時間をくれたんだ……!
「あ、ありがとうございます。良い答えを出して見せます。頑張りますっ!」
私は深く頭を下げて店を出ると、大急ぎでお城へと走った。