第23章 今川の姫
「所で、今日はどこ行くの?いつもの薬屋さんは過ぎちゃったよ?」
(本当にこのままだと遊女屋街の中に入って行くけど…)
「今日は月一にしか来ない薬売りの爺さんが来る日なんだ」
「薬売りの…お爺さん?」
もうそれだけでよく効きそうな感じが伝わってくるけど…
「そう、普段は山に籠って暮らしてるらしいんだけど、たまに街に降りて来ては珍しい薬草を売ってくれるんだ」
「へぇ〜、なんかすごそう…」
「あんたが二日酔いになっても大丈夫なように沢山買い込むから安心して」
くしゃっと顔を崩して家康は笑った。
「家康、最近よく笑ってくれるようになったよね」
来た時は秀吉さんとツートップで冷気が漂ってて怖かったけど…
「なにそれ…あんたの能天気さが移ったとでも言いたいわけ?」
「失礼すぎ!そんなに能天気じゃありませんっ!」
「冗談だよ。すぐ間に受ける」
クスッと笑う笑顔に思わず見惚れてしまう。
(もっとその笑顔見せればいいのに…)
誰から聞いたわけじゃないけど、徳川家康が幼少期に人質に出され苦労した話は有名だ。だからなのか、家康はあまり人に心を許してないような気がする時があって…
信長様が私にしか見せてくれない顔が(きっと)あるように、家康にもそんな相手がいるのかな……?
気を張り詰めて生きている彼にそんな相手がいるのなら良いのに…と、”要らぬ世話”だと言われそうだけど思ってしまった。
その後遊女屋街を抜けた路地で薬草を売っているお爺さんを見つけ、私たちは薬草をカゴいっぱいに買うことができた。
「重くない?」
「うん、大丈夫。薬草だもん、全然重くないよ」
「お礼に団子でも食べいこうか?」
「えっ!良いの!」
「喜びすぎ」
(あ、この笑顔も素敵だ)なんて思って家康と笑い合っていると、家康の後ろに人影が見えた。
「?」
私の視線の動きに気付いた家康も後ろを向いてその目線を追った。
少し離れた所にいるその人たちは、男女の二人組で、旅人の装いをしていた。
(恋人…同士には見えないな?)
よそよそしく歩くその二人組がどんどんこっちへと近づいてくる。
そして一つの考えに辿り着いた。