第20章 恋仲修行 〜政宗編〜
「ふんっ、毎度のことながら無駄なことを…」
厨に降りて来た信長様は楽しそうに伽耶の隠れている米俵へと向かう。
「伽耶ここで何をしておる?」
身を縮めて屈んでいた伽耶は気まずそうに立ち上がり、次は作業台へと逃げた。
「み、見ての通り夕餉の支度です」
下手な嘘は信長様の嗜虐心を余計に煽る。
「そうか、ならば俺も手伝おう」
厨に立つだけでも稀有だが、腕まくりをし手伝うなど滅多に?いいや、初めて見るな。
「な、なんでですかっ!?」
「その方が早く済む。貴様を愛す時間が多くなるであろう?湯浴みも共にせねばならんしな」
意味深にそう言って伽耶の顔を覗き込む。
「……っ」
真っ赤な伽耶。
バカだな。逃げれば逃げるほど追いかけたくなるのが男心ってもんだ。あいつはそれがちっとも分かっちゃいない。
だが、こんな信長様を見られるのも伽耶がいるからこそだ。
戦で勝利を収めてもさも当たり前かのように不敵な笑いしか見せなかった男が、最愛の女にだけは誰も見た事のない優しい笑みを見せる。
「じ、じゃあ信長様は、この野菜を剥いて下さい」
あいつ、本当に信長様に厨仕事を手伝わせる気か?
あいつのいた未来の日ノ本には身分制度はないと言ってはいたが、そんなことを言えるのは伽耶くらいだな。いや、もう追い詰められすぎて思考が追いついていないからか…?
「…俺は貴様と同じ事をする」
信長様の言葉は伽耶の思考を更に追い詰める。
「へっ?」
包丁を握る伽耶の後ろに立ち伽耶を抱きしめるように覆い被さりその手を上からそっと添えた。
「っーーー」
くくっ、あれはもういつ頭が噴火してもおかしくないな。
分かりやすく反応するからこそ余計に苛めたくなるとかは考えねぇんだろうな。