第20章 恋仲修行 〜政宗編〜
「手が冷たいな、寒いのか?」
野菜を洗った時に冷えたであろう伽耶の手の冷たさに信長様が気づいた。
「いえっ、ぜんぜんっ!全くもって寒くないです。
今日は暑いくらいで…」
「何を言ってる?こんなに手を冷やして」
信長様は伽耶の手を取り指先に息を吹きかけた。
こんな光景、なかなか見られない。
眉一つ動かす事なく敵を薙ぎ倒して来た男がたった一人の女の手を温める光景を見るのは悪くない。
「早く作業を終わらせろ。湯殿の湯が冷える」
「っ、そんな、手を握られてたら包丁を握れません。それに、湯浴みは今日は…できれば別々に…」
「こんなに冷えた体で何を言ってる?俺が湯船で温めてやる」
「ほ、本当に今日は……っ」
どうやら、伽耶が逃げて来た理由はそこら辺にあるみたいだな。
既に勝敗は見えている。
と言うか、信長様が狙いを定めた獲物を逃す事などない。
「ふっ、政宗をこれ以上楽しませる前に行くぞ」
信長様は俺をチラッと見て口角を上げると、伽耶を抱き上げた。
「ひぁっ!信長様っ、まっ、政宗の前……っ!」
「それがどうした?それともまだ見られていたいのか?」
「そっ、そんなわけ……、でもまだお手伝いが残って…」
「政宗、まだ伽耶の手伝う事は残っておるのか?」
「いいや、なぁんにも。俺だけで事足りる」
「だそうだ。行くぞ」
「っ、……ま、政宗の裏切りものーーーーーっ」
逃げられないよう信長様にがっちりと抱き抱えられた伽耶は、叫び声を上げながら湯殿の方へと消えて行った。
「面白え……」
戦以外でこの安土でこんなにも楽しませてもらう日が来るとは思ってなかったが、まだ暫くは、あの茶番劇をこの厨で楽しむことができそうだ。
頑張れよ伽耶。