第20章 恋仲修行 〜政宗編〜
「もう、虫にも慣れたみたいだな?」
ここを手伝うと言った当初は、葉物についた虫を見るたびに悲鳴を上げていて笑えたが、今ではあまりその光景も目にしなくなった。
「ついてない事の方が稀だし、いやでも慣れるよ。まぁ、この間のカボチャの中の小さな虫の大群には叫んだけどね」
あはは…と、大口を開けて朗らかに笑う顔は、信長様でなくとも見惚れるほどに可愛らしいのは確かだな。
「で、今日はなんで逃げたんだ?」
そろそろ良いだろう。と、俺は核心に触れた。
小松菜を切っていた伽耶の手は、分かりやすくピタッと止まった。
「…な、なんの話?」
予想通りの答えに、笑いが思わず漏れる。
「もうとっくに夕餉の支度は終えて配膳されてる。それ分かってここに来てんだろ?」
伽耶と信長様の夕餉の膳は天主に運ばれてるはずだ。
「…………っ、あ、あれ?そうだった?…あっ、じゃあこの大根と小松菜、無駄に切っちゃった?」
(気付いちゃいないんだろうが、動揺しすぎだ)
「いや、それは遅番の奴らに食わせるのに使うから気にするな。それよりも、俺の質問に答えろよ。どうして逃げてんだ?」
「……っ、」
作業台に手をついて詰め寄ると、伽耶は困った顔で目を逸らした。
「それは…」
伽耶が何かを言おうと口を開いた時、
「伽耶………!」
信長様の、伽耶を呼ぶ声が廊下に響いた。
「っ信長様っ!」
伽耶は素早くその声に反応し、米俵がいつくか積まれた裏側へと走った。
「伽耶っ!」
信長様の声が近づいて来る。
「政宗お願い、ここに来たらいないって言って!」
そう言って、米俵の後ろに隠れたのと、信長様がここへ来たのは同時だった。
「政宗、伽耶がここに来たはずだが…」
信長様の勘が外れる事はない。
「伽耶ならあそこに隠れてますよ」
別にどちらの味方でもないが、バレた方が断然面白い事になる。
「っ、!!!政宗の裏切り者っ!」
ほら見ろ、伽耶のこの焦りに焦った顔だけでもう面白い。