第20章 恋仲修行 〜政宗編〜
「政宗、何か手伝う事ない?」
いつもは朝餉の支度だけを手伝いに来る伽耶が、珍しく夕餉の手伝いに来た。
「伽耶、お前どうした……?」
「あ、あの…いつも朝餉ばかりだから、たまには夕餉も手伝おうかなって思って…」
そう答える伽耶は、信長様と少し前に恋仲となった女だ。
「手伝うって、お前…、確か今夜は……」
信長様と夕餉を食べると聞いているが、と言うのを俺はやめた。
「な、何?」
手伝うと言う割に挙動不審な伽耶を見れば答えは一つ。
「なぁんでもない。…じゃあそこの野菜切ってくれ」
「う、うん」
伽耶はホッとした顔で包丁を握り大根を切り始めた。
(あいつ、また逃げたのか……?)
伽耶は、信長様に言われ俺が本能寺から馬に乗せて連れ帰って来た女だ。
信長様の戯れで強引に連れて来られた女は、500年も先の未来から来たのだと青白い顔で俺たちに訴えた。
信じられる訳のない話だったが、誰が見ても明らかにこの乱世には不慣れと分かる伽耶に、俺たちは疑いの目や視線を投げつつも、その華奢で儚げな姿の美しさに目を奪われたのも確かだ。
まぁ結果、信長様に持って行かれた訳だが、この二人の動向がまた面白い事になっている。
信長様の、人目を憚らず伽耶を愛でる姿も面白いが、信長様の連れ合いと言う立場や言動に戸惑い逃げる伽耶もまた、見ていて面白い。
「この小松菜も切る?」
「ああ、」
「じゃあ洗うね」
小松菜をザルに置いて水洗いをすると、伽耶は手にはぁーと吐息を吹きかけて暖める。
「冷たいか?」
「え?…あーうん。でも大丈夫」
大丈夫じゃない事は、赤くした伽耶の指先を見れば分かるが、すぐ逃げる割に、伽耶は決めたことへの根性はある。
小松菜の水を軽く切ってザルに再び乗せて、また作業台へと戻った。