第19章 譲れない事もある
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「はぁ〜」
あれから針子部屋で仕事をしていても、夕方の事を考えると落ち着かない。
「伽耶 、何か悩み事?」
今夜のことを考えて、手が止まりがちな私を気遣って、針子仲間が声をかけてくれた。
「うーん、ちょっと困ったことが起きてて…」
「何なに?」
私の困り事といえば、八割がた信長様との事のため、その言葉が合図かのように針子たちが私の周りに集まってきた。
「今回の悩みは何?」
「口移しで食べさせてやるって言われたとか?」
「きゃー、それは照れる〜」
「いや、それはちょっと遠慮したいかな….」
針子たちは口々に思いを述べ始める。
「違う違う、そんな事は言われてないよ」
(まだ…そしていつか言いそうだけど…)
私は慌ててその会話の内容を打ち消すべく否定をした。
【じゃあ、なんなのっ!?】
みんなの声が揃う。
いつの時代も女は噂話や恋バナが好きだ。しかも今までは口に出すだけでも処罰されそうだった信長様の話は特に大好物らしく、私のちょっとした言動も見逃すことなく、皆は根掘り葉掘り聞きたがる。
元カレとの時は社内恋愛で秘密にしていたと言う事もあり、私はずっと彼氏がいないと言う事になっていたから、こんな風に悩みを聞いてもらう事も嬉しくて、話せる範囲の話ならばと話し始めたら、彼女たちの誘導尋問にまんまとハマってしまって今に至る。
「あの…一緒に湯浴みをしようって言われて…」
まさか湯殿で事に及ぼうと言われたと、全てを話す事はできないから、嘘じゃない範囲で私は悩みを話す事にした。
「はぁっ?そんな事で悩んでんの?」
「贅沢すぎる…」
「私が代わりに入って差し上げたい」
思っていた反応とは違い、みんなは信長様派な意見…
「みんなは…一緒に湯浴みする事に抵抗ないの?」
(こんな事で悩んでるのは私だけ?)
「ないよー。むしろ仲が深まるし…」
「だって…明るい所で裸見られるの、恥ずかしくない?」
「全然?向こうも裸だし」
(うっ、なんて大人な意見…)
「うちの夫婦は基本一緒に入るよ」
「ええっ!」
おかしいぞ…、まるで私だけが恥ずかしがってるみたいな気がしてきた。