第18章 未来を知る者
・・・・・・・・・・
「あー、楽しかったです。視察に連れて来て下さりありがとうございました」
楽しい時間はあっと言う間で、暗くなる前に戻らなければならない私たちは、村を出て安土城下へと戻って来た。
「城の中にいるよりもよほど良い顔をする」
「そう言う信長様だって…」
お城にいる時よりも生き生きとして見える。
「でも意外でした。信長様もお芋掘りを手伝って下さるとは思ってなかったので…」
私だけかと思っていたお礼の代わりのお手伝いに、信長様も普通に参加してきた為、そこにいた村人が全員、何事かと固まってしまうほどに、私も含め皆が驚いた。
「尾張にいた頃はさして珍しくもなかった。朝から釣りに出たり、野菜を収穫したり、獲物を狩りに行ったりと、城にはあまりいなかった」
「そうなんですか?全然想像できません」
今の信長様は完全にトップの人で近寄りがたい雰囲気しかない。
「あの頃は口うるさい家臣が回りに大勢おったからな。小言を言われるのが面倒でよく城から逃げ出したものだ」
「ふふっ、そんな私みたいな時代もあったんですね。見てみたかったです」
「そうだな、今日は…貴様のおかげでぬるま湯に浸かった様な時を過ごせた」
キュっと、私を優しく抱きしめてくれた信長様の心の声を少しだけ聞けた様な気がした。
天下人に近づく程にその存在が恐怖の魔王となって行った信長様の、小言が苦手で城にいたくなかったなんて可愛らしい理由で逃げていた日々…。
その日々が戻る事は無いのだろうけど、新たにそんな日々を作っていけるように頑張ろうと思った。
「…でも、お礼のつもりだったのに逆にお土産を頂いてしまって良かったんでしょうか?」
掘ったお芋を何本かお持ち帰り下さいと言って、お芋が好きな私はあまり遠慮することなくもらって来てしまった。
「掘り出す度に”美味しそう”を連呼されれば誰だってそうなる」
そんな私の言葉に、信長様は呆れたように笑う。
「う、そうですよね。気を使わせてしまいました」
だってとても立派で、お芋を使ったスイーツが頭の中に次から次へと浮かんできたんだもん。