第18章 未来を知る者
「ごめんなさい。ご厚意は嬉しいんです。でも、今欲しい物は本当に無くて…、その…」
言葉はよく考えて発する事。
会社にいた頃は常にそれを念頭に気をつけてたのに、ここにいて甘やかされ過ぎていて気が緩んでる…本当にこの人の前だと、私は子どもの様になってしまう。
「失礼なことを言いました。すみません」
甘えて逃げてばかりでなく、成長もしなければ…
「いや、貴様の言うことも一理ある」
「え?」
「貴様の言う通り、民に活気がなければ国は栄えん」
脇息にもたれながら、信長様は口の端を上げる。
「信長様、これは一本取られましたな」
商人の方も、爽快に笑い出した。
「だから貴様は手放せん」
「え?…わっ!」
信長様は手を伸ばすと私の腰に手を回して抱き寄せた。
「信長様っ!?ひ、人前です」
大声を出すわけにもいかず、小声で囁いて止めて欲しいと訴えたのに…
「ふっ、こんな所で煽るな、口づけたくなる」
「Noーーーっ!」
する気満々で近づいてきた唇を両手で覆って阻止した。
はずなのに…
信長様は私の両手首を掴んで離すと、私の指先に唇を押し付けた。
「………っ」
その所作が妙に艶っぽくて、ジッと見つめられただけで顔が一気に熱くなった。
「今の言葉の意味は聞かずとも分かった。今はこれで我慢してやる」
チュッと音を立てて、信長様は私の手を離した。
「あ、ありがとうございます」
(私がお礼を言うところ…?)
けれど助かった。どうやら、“No”は国どころか時代を超えて理解されるらしい。
「出かける。貴様も一緒に来い」
「え?」
「無駄金を使わず民を救いたいのであろう?」
「はい……でも私、仕事を抜け出してここへ来てるので…」
「貴様の一番の仕事は、俺の近くにいる事だ。それとも、俺と視察に行くのに何か不満があるのか?」
「そんなのは、ありません」
本音を言えば、二人でお出かけなんて嬉しいに決まってる。
今日は急ぎの仕事もないから抜けても迷惑はかけないけど…
「ならば問題はない。針子部屋へは伝えておいてやる。視察に出かけるぞ」
信長様は意気揚々と立ち上がり、早くしろとばかりに私の腕も引っ張った。