第18章 未来を知る者
「ふっ、そんな愛らしい理由でこれを選んだと言うのか?」
脇息にもたれる信長様は、笑いながら私の髪を一房手に取りパラパラと落とした。
「はい…あの…いけませんでした?」
「いや、だがやはり貴様の考えは読めん。常に俺の予想を超えてくる」
くっくっと、楽しそうに笑う信長様に対して、私の???は増えて行く。
「姫様の選ばれたこの茶碗は天目茶碗と言いまして、唐渡りの大変貴重で高価な物でございます」
そんな私に気を使ってか、商人の方が茶碗の説明を始めた。
「えっ!高価って…どれほど高価な物なんですか……?」
「これ一つで小さなお城が買えるほどの代物でございます」
「ええっ!?」
そう言うことはもっと早く言って欲しかった。と言うか、そんな貴重な物を普通に並べないで欲しい。
怖すぎて、膝の上に置いた茶碗をゆっくりと元の位置に戻した。
「どうした?」
「いえ、そんな凄いものとは知らなかったので…これはやめておきます」
忘れていた…
ここにある物全てが一級品だって事を…
「遠慮する事はない。それに天目としては、これはそれほど高い物でもない」
「え?もっと高い茶碗が存在するんですかっ!?」
これ一つでお城だよっ!なのに安いってどう言うことっ!?
お城なんて…マイホームを持つのだってローン35年の時代の人間には理解できない感覚だ。
「姫様、信長様の言う通りでございます。同じ天目茶碗でも、信長様がお持ちの曜変天目に比べればこれはまだお値打ちです」
商人もサラッと怖いことを言って来た。
「信長様のって、あの、いつも使われてる綺麗な茶碗ですよね?」
プラネタリウムみたいに綺麗な…
「ああ、あれは日ノ本でも、俺とわずかな者しか持ち合わせぬ物で、城の価値では換算できない」
「そっ、!」
そんな凄いのでいつもお茶飲んでたのっ!?
「そんな事聞いたらますます要りませんっ!」
「なぜだ?」
「私にはそう言うものの価値はよく分かりませんし、それ一つでお城が買えるのなら、私はそのお金で今も飢餓や病気に苦しんでる人たちを救いたいです」
(…………あ、しまった…!)
これは、ここでは言ってはいけない言葉な気がすると思ったけど、もう口から出てしまったものは仕方がない。
そして思った通りに、その場はシーーーンと静まり返った。