第3章 賭けの始まり
「………っ、分かったのなら離して…」
「面白い」
“離してください”と言うつもりだった言葉が遮られ、思いがけず愉しげな声が返ってきた。
「へ?」
「貴様にそれほど時間をかける価値があるとも思えんが…興が乗った。面白い。貴様のその”てくにっく”とやら、俺が引き出してやろう」
「はぁっ!?」
(この人は一体何を言ってるんだ!?)
顔のみならず身体中の熱が一気に押し上げられた。
「ふっ、一瞬で赤く染まったな。手管はなくともその顔には中々に唆られるものがある」
スルリと大きな掌が私の頬を滑った。
「っ、……私は好きな人とでなければしません」
「惚れさせれば良い、貴様は確かそう言ったはずだが?」
「それは…」
「貴様を惚れさすなど造作もないこと。その身も心もすぐに俺に堕ちる」
クククッと、笑う信長様の顔には愉快と書いてあるみたいに見える。何だか悔しい。
「残念ですが、その前に私は元の世界に帰りますから無理だと思います」
「は?」
佐助君の存在は伝えず、私はワームホールが三ヶ月後に現れることを話すことにした。
「私、元の世界に三ヶ月後に戻れることが決まってるんです。だからあなたのことを好きになることは無いと思います」
綺麗な顔に人を惹きつける強力なオレ様っぷりはとても魅力的だけど、終わりのある恋愛ができるほど器用じゃない。
「なる程、だがもし貴様が俺に落ちた場合、貴様は帰る気など失せていると思うが……?」
私のこと簡単に落とせると思ってるんだろう目は、揺るぎない自信を私にぶつけてくる。
「確かに、あなたのことを好きになれば帰りたくないと言うかもしれません。でも大丈夫です。私はカエル女なのであなたのことを好きにならない自信があります」
「蛙女だと?どう言う意味だ」
想定通りの質問だけど、どう説明すべきか…
「えっと、好きな人ができて思いが実りそうになると、なぜかカエルに邪魔されて、その人のことが嫌になっちゃうんです」
ちょっと違うけど、こんなんで理解してくれるかな..?
さっきのスマホの時にも思ったけど、どうやら私は咄嗟の説明が苦手らしい。