第3章 賭けの始まり
「?……つまり貴様は、蛙に憑かれてると言いたいのか?」
「え?あーまぁそんな感じです」
ちょっと解釈がホラーな感じになっちゃったけど、まぁいいっか。
「だが貴様には”かれし”がいたのであろう?その時には蛙は出てこなかったのか?」
「え?」
なんて鋭いツッコミを……
「えっと、なんて言いますか、本当の恋に落ちればそのカエルの呪いは消えるそうですが、その恋を失うとまた憑いてしまうと言う厄介なものでして…」
ちょっと苦しい言い訳かな…
チラッと信長様を見ると何かを考える仕草をしたけれど、すぐに口角を上げて私を見た。
「問題ない。その蛙、俺が見事追い払ってやる」
「はっ?」
「天下布武を唱える男が蛙如きに負けるのは癪に触る。それに貴様は俺のもの。元の世界になど帰らせん」
「なっ!そんな一方的なっ!せめて賭け形式にして下さいっ!私が本当にあなたを好きになった時は、元の時代には戻らずあなたのものとなります。でも、もしそうならなかった場合は、私を元の世界に帰らせて下さい」
恋愛は当分する気にならないし、大地の事も簡単に忘れられると思わない…。何よりも元の時代に帰りたい。仕事だって入社4年目でやっと大きな仕事を任される様になって来た矢先だったのに…
「面白い。よかろう貴様の案に乗ってやる」
信長様はそう口元を緩ませると私の腕を引っ張り体を起こしてくれた。
そしてお銚子を手に取り二つの盃にお酒を注いで一つを私の前に差し出した。
「?」
「誓いの盃だ。貴様が勝てば元の時代に。俺が勝てばこのままここに留まり俺のものに」
「わ、分かりました」
盃を手に取り信長様の盃とカチッと合わせて一気にお酒を飲み込んだ。
「いい飲みっぷりだな」
「お酒は結構好きなんです」
自分の一生と三ヶ月の恋なんて、絶対に自分の一生を選ぶに決まってる。
本気でそう思っていたし、一生を賭けたいと思えるほど本気でこの人を好きになるなんて思っていなかったから……
「絶対に好きになりませんから」
「ふっ、結果が楽しみだな」
再び注がれたお酒を呑気に美味しく飲んだこの夜を、この時代の思い出にしよう。なんて、この時の私はお気楽に考えていた。