第3章 賭けの始まり
ククっと笑っているのに私を見る目は冷たくて…、本当に”者”ではなく”物”として見られている気がした。
逃げたくてもがっしりと押さえつけられた体はびくともしなくて、信長様の持つお銚子が私の唇に当てられた。
「っ、…自信がないんだ?」
(えっ、何を言い出す気?私っ!?)
「は?」
私の口にお酒を注ごうとした手がピタッと止まった。
「命令しないと私を思いのままにできないんだ」
(ヒィーー、だから私何言ってんのっ!?)
信長様の目は冷色から不快な色に変わってる。
(怖いっ!めっちゃ睨んでる)
やめるなら今なのに…
「自分のことを好きでもない女を無理やり抱いて楽しい?どうせなら私を信長様に惚れさせてから手を出したらどうですか?それなら私だって喜んで信長様の命令に従うのに…」
(いっ、言ってしまったーーーっ!)
目の前にある?(いや押し倒されてるから体の上のか?)信長様の顔は一瞬強張った後、口だけが大きく弧を描いて吊り上がった。
コト、と、お銚子が私の顔の横に置かれた。
「惚れるなど、無益なことを言う女だ」
スッと伸びた手は私の着物の裾を割って入り太ももを撫でる。
「………っ」
「…女など、誰を抱いても同じだ。触れれば簡単に声を上げ身体を開く」
綺麗な顔は残酷なほど映えると言うけれど本当だ。
ガラス玉のように無機質な赤い眼にゾクリと背筋が冷えるのに、目が離せない。
「……っ、誰でも一緒じゃあないと思いますよ?」
「何?」
「ほっ、ほらっ、私は彼氏にフラれた女でなんのテクニックも持ち合わせてませんし…」
「てくにっく?とはなんだ?」
(あ、食いついた?)
「えっ…と、テクニックって他になんて言うの?…あっ、技術?」
「技術?」
「あ、違うか…えっと、とにかく男の人を喜ばす技みたいなものですっ!」
「ふっ、閨事での手管がないと、貴様は言いたいのか?」
「あっ、そうそうそれですっ!フラれたったことは、私にはそれが微塵もないはずですから、きっと抱いたって楽しくないと思います」
(って、何を力説しているんだ私は…!)
もの凄いことを物凄い体制で力説していることに気付き、かぁぁぁぁぁっ!と一気に顔が熱くなった。