第15章 晩酌④
「何のつもりだ…?」
「……っ」
伽耶は俺の問いには答えず、更に強く腕を巻き付ける。
「なぜ、拒まぬ…?」
混乱しながらも、消して良い予兆ではないこの行為に、首に回された奴の細腕を振り解いた。
「……」
だが伽耶は言葉を紡ごうとはしない。
「このまま黙って抱かれるつもりか?」
これを、最後にとでも思っておるのか…?
「貴様…俺に抱かれるつもりなら、言うべき言葉があるだろう?」
奴の心を読み取ろうと睨み見ても、熱に浮かされ潤んだ目には悲しみしか見て取れない。
「ここに残ると言え」
俺に抱かれるのならばここに残ると言えっ!
「伽耶、答えよっ!」
「……」
ふるふると、伽耶は涙をこぼしながら首を横に振る。
「……っ、ふ、ぅぅ…」
「…っ、泣くな」
伽耶の涙を指で拭い取る。
俺の指に触れた唯一の涙が伽耶の涙だ。
だがこれからはこの涙を拭ってやることはできないのだと思うと、涙で濡れた指先が冷えた。
言葉には出さずとも全身で俺への詫びを訴える伽耶をやはり愛おしいと思うばかりで、何度も奴の顔に口づけを落とした。
「貴様の気持ちは分かった。だからもう泣き止め」
本音を言えば、貴様を抱いてしまいたい。
この着物の下に隠された白い肌を桃色に染め上げその華奢な体をどのようにくねらせ俺を誘うのかを見たい。
だが…貴様を抱く事はできん。
貴様を知った後で、貴様を失う事は考えられん。
一夜の思い出など..残酷なだけだ。
この夜、貴様を抱いておけば良かったと思う日が来るのかは分からぬが、貴様を抱きしめたこの感触を忘れる日は来ぬだろうな…