第15章 晩酌④
「月が…綺麗ですね」
「は…?」
今まで、何を聞いても泣くばかりだった伽耶が突然発した言葉…
「月が…綺麗ですね」
なぜか奴はもう一度その言葉を口にした。
確かに、空を見れば月が煌々と輝いている。
月などに興味はなかったが…
「そうだな。月が綺麗だな」
奴の気持ちに寄り添おうと、そう答えた。
「!」
その言葉を聞いた伽耶は目を見張り俺を見ると、
「っ……」
また涙をこぼした。
この言葉に何か意味があるのだろうとは思ったがもう問い詰める気にはなれず、
「本当に、月が綺麗ですね」
もう一度その言葉を言った奴の顔を俺の胸に寄せ、
華奢な割に柔らかく甘く香る奴の体を抱き締めて眠った。
そして次の日、俺は佐助からあの次の言葉の真相を聞き出し伽耶の俺への気持ちに確信を持った。
…………
……
「ふっ、戻って来るとは思っておったが、あまりにも普通に戻って来た時には驚いた…。まことに行動の読めぬ、面倒くさい女だ」
眠る伽耶の鼻を摘んであの日の気持ちを伝える。
愛しい女はそんな俺の気持ちも知らずに深い眠りに落ちたまま。
「だがあの日貴様が戻らねば、これ程に満ち足りた気持ちを知る事はできなかった」
触れても尚貴様が欲しくて堪らない。
「手加減などせずに抱きたい所だが、逃げられては敵わんからな。しばらくは我慢してやる」
俺は最後の酒を一気に喉に流し込む。
「少し冷えたな」
火照りの鎮まった体を布団の中に潜らせ、伽耶の体を抱きしめる。
今宵も良く眠れそうだ…
優秀で愛しい抱き枕を手に入れた俺は、その夜も心地よい眠りについた。