第15章 晩酌④
月見を一緒にと誘われている奴は嬉しそうに返事をしようとしているが、そうはさせん!
「ありがとうございます。是非一緒に……っぷ!」
言葉を言い終える前に手で奴の口を塞ぎそれを阻止した。
「悪いが、此奴は連れて行く」
「信長様っ!確か京にいたはずでは…」
“どうしてここにっ!?”と言う声が聞こえる様な奴の驚いた顔に体の芯が疼いた。
「つべこへうるさい、行くぞ」
「えっ、…きゃあっ!」
有無を言わせぬ様、奴を抱き上げて連れ帰った。
「晩酌に来い」
そう言って伽耶を一度部屋へと帰した。
逃げて来ぬなら、それが奴の出した答えだ。
だが、奴は逃げる事なく天主へとやって来た。
淡い期待が込み上げたが…
「信長様、これを…」
伽耶は部屋に来て一番、俺が奴に与えた品々を俺の前に揃えて置いた。
胸に湧き上がる期待は一瞬で消え去り、苛立ちだけが残る。
「…何のつもりだ?」
「明日の朝ここを発ちますので、色々とお借りしていたものを今お返しします。ありがとうございました」
着物の上にぽんっと淋しく置かれた懐剣と己の心境が重なる。
「それが貴様の答えか?」
「………はい」
逸らす事なく真っ直ぐに俺を見つめる目には、意志の硬さが見て取れた。
「……そうか」
伽耶の、いざとなると腹を括るこの意志の強さを知っている。
俺が奴に惹かれた一部でもある。
これ以上は何も言わず、置かれた品々を横へと置いた。
「あと、これを信長様に」
次に伽耶は、一枚の着物を置いた。
俺のために仕立てたのだと分かるその着物…
「貴様が縫ったのか?」
「はい。今までの感謝の気持ちをたくさん込めて仕立てました。貰って頂けたら嬉しいです」
貴様からの贈り物ならどんな物でも喜べると思ったが、これはできれば受け取りたくはない物だな。
受け取ることは、伽耶の意思を受け取ることになる…が、突き返す事はできぬ。
「感謝の気持ちか…そんなものはいらんが、これは貰っておく」
着物を手に取る気には到底なれず、それもまた返された品々同様横へと追いやった。