第15章 晩酌④
「ここは敵地だから手短に話すけど、ワームホールは予定通りに現れる。早朝君を安土に迎えに行こうと思うけど、どうかな?」
そして佐助は核心に触れる。
俺は、伽耶は未来へは帰らないと言う気がしていたが…
「うん。大丈夫。宜しくお願いします」
伽耶は迷う事なく返事をして笑みを浮かべた。
「……っ、」
伽耶と言う存在が、またしてもスルリと俺の腕の中から逃げた瞬間だった。
あれ程の口づけを交わした後で未来へ帰ると言い切った伽耶に、もうできることはないのだと悟った。
俺らしくもないと言えばそれまでだが、欲しいのは心であって、無理矢理抱いて繋ぎ止めたいわけではない。体だけが手に入っても心がついて来なければ意味はなかった。
伽耶と佐助は何かをその後も話していたが、俺は気配を消したまま、その場から姿を消した。
そして、戦から安土に戻ると朝廷からの呼び出し。
奴らに呼び出されれば暫くは安土に戻れないことは分かっていたが、逆に伽耶に会わずに別れるのも運命(さだめ)やもしれん…と、俺は京へと立った。
だが苛立ちは募る。
話の通じぬお高くとまった奴らを相手に、頭に浮かぶのは京へ立つと告げた時の伽耶の寂しそうな顔…
なぜそんな顔をした……?
未来へ帰ると言っておきながら、なぜあの様に顔を曇らせ俺を見た…?
俺を好きにならぬと言ったその口で、なぜ俺の口づけを受け止めた…?
「くそっ!」
このままではらちがあかんっ!
今一度、奴の胸に直接問いただすっ!
「蘭丸っ、後は貴様に任せた」
「えっ、信長様っ、どちらへっ!?」
「俺はやる事があるゆえ安土に戻る」
「えぇっ!信長様っ!」
叫ぶ蘭丸を置いて、俺は安土へと戻った。
すぐに会えるものと思っていたが城に奴の姿はない。
「性懲りも無くまたふらふらと…」
居ても立っても居られず城下へと馬を再び走らせた。
自然と足は伽耶の唇に初めて触れたあの寺へと向く。
そして奴は睨んだ通りにそこにいた。