第3章 賭けの始まり
「まだその男に未練があるのか」
「え?」
「別れた男の名前が残っているとはそう言う事であろう?」
「っ、それは…」
喧嘩のたびに消去したくせに、別れを告げられた途端に消せなくなった。だってもう大地から折れてくれる事はなくなってしまったから。それでも最初のうちは連絡が来るんじゃないかと何度もスマホの画面をチェックしたけど、社内報の結婚報告写真を見て、もう連絡はないんだとようやく頭は理解した。
「未練は、あると思います」
簡単に忘れられるわけがない。
「そうか」
信長様はそう言うと、ピッと何かを押した。
(まさか…!)
「っ今、何を押しました!?」
慌ててスマホを取り返して画面を見れば、消去しましたの文字…
「酷いっ!人の物を勝手に…」
(しかもどうやってその画面に辿り着いたの!?)
「貴様は俺のものだ。すなわちそれも俺の物、どう扱おうと俺の勝手だ」
「は?何言ってるんですか?これは私の物で、私はあなたのものになった覚えはありませんっ!」
どっかの漫画のキャラじゃあるまいし、お前のものは俺の物ってどんな思考よっ!
「貴様は俺が本能寺より連れ帰った此度の戦利品だ」
スマホを握る私の手首を掴むと、信長様は口づけた。
「っ………」
突然のことと想定外のことに固まっているとそのまま身体は倒れて行き、押し倒されたのだと分かった。
「なっ、なにっ?」
「ふっ、男が女を己の城に連れ帰り部屋を与える理由は一つだ。貴様も、それが分からぬほど子供ではあるまい?」
「っ……」
それは…私の時代にもあるお部屋にお待ち帰り的な発想……?
「こ、このお城に住むのはあなたのものになったからではなくて、あなたを助けた代わりに私がもらった権利です!だから私はあなたのものではありません。そのスマホのデータだって勝手に消去するなんて…」
「でーた?よく分からんが、俺のものに過去の男など必要ない」
「だから、私はあなたの彼女になった覚えはありません」
「”かのじょ”ではなくとも貴様は俺のもので、俺の命令は絶対だ。例えばそのうるさく喚く口に酒を注いで盃とし塞いでも誰も文句は言わん」
私を押し倒しながら、信長様は片手で横のお銚子を手に取った。