第15章 晩酌④
その後湯浴みを済ませ外へ出ると、同じく湯浴みを済ませたのであろう伽耶の後ろ姿をとらえた。
先程の事が思い出され後ろから抱きしめ唇を奪ってやろうと思った時…
「伽耶さん」
俺ではない、伽耶を呼ぶ男の声。
(誰だ…、しかも…伽耶を知っている……?)
聞き覚えのない声に様子を見るため気配を消す。
伽耶も恐る恐る声のした方を凝視している。
「伽耶さん」
その声は、次ははっきりと伽耶の名を呼んだ。
「だ、誰っ?」
どうやら、予期せぬ来客らしい。
奴に危害が及ばぬよう、俺はそっとピルトルに手を置く。
「ひっ!」
伽耶の驚く声で、ピルトルを抜こうとすると、
「しーっ、伽耶さん俺だよ、佐助」
「え?佐助君っ!」
佐助…?伽耶と同じ未来から来た男か?
目を凝らし見ていると、忍びが伽耶の元へと現れた。
(あれが…伽耶と同じ未来から来た者だと?)
どう見てもあれは忍びの動き…
伽耶の様にふわふわとした男版を想像していた為、かなり腕が立つであろうその忍びの男に目を疑った。
「こんばんは伽耶さん。君にこんな所で会えるなんて思わなかった」
だが口を開くと、確かに伽耶の時代を感じる柔らかさ…
「こんばんは佐助君。私も…驚いたよ。今もだけど、その…佐助君が上杉軍にいたから…」
「君に黙っていたことは謝る。知らない方がいいと思ったし、まさか君が戦場に現れるとは思わなかったら」
なるほど…。互いにこの時代での身の上をあまり詮索していないと言う事か……?
この時代に生きる者としては考えられないが、伽耶の余り他人に介入しない朗らかさを思えば、それは十分に納得がいった。
「ここにいるのは…私も想定外だったから、でも会えて良かった」
「落馬した君を見た時は驚いたけど、元気そうで良かった」
伽耶から佐助のことを聞いていなければ、この光景は確実に伽耶を間者と疑いそうなほどであったが…、伽耶にも、そして、上杉の忍びである佐助にも嘘は見られなかった。