第15章 晩酌④
「嘘っ!だって家康が、信長様の手当てをしろって…」
「家康の奴、余計な事を…」
「見せて下さい。どこを怪我したんですかっ!」
大した傷ではない。しかも、敵から負った傷など見せたくもなく無視をすると、伽耶は俺の着物に手を掛け傷口を探し始めた。
「おいっ………っ!」
傷口そのものを着物越しに掴まれ、呻き声が漏れた。
「失礼します。捲りますよ」
袖口を捲り上げれられ傷を見られた。
「っ、ごめんなさい。私のせいでこんな…」
思った通りに、伽耶は己を責める。
「貴様のせいではない。守ると言いながら貴様を危険に晒した俺に責任はある」
「でもわた……わっぷ!」
さらに己を責めようとする伽耶を抱き寄せ腕に閉じ込めた。
「信長様っ?」
驚き身動ぐ伽耶からは、ふわりと甘い香りが漂い理性が揺さぶられる。
「信長様傷が…離して下さい」
「こんな傷はたいしたことない、貴様こそ、怪我をしておらんだろうな?」
そんな心の内を気取られまいと、俺は話を伽耶にすり替えた。
「こんな怪我してるのに私の心配なんて…」
「答えよっ!」
「っ、…私は、お尻を強打したくらいでどこも怪我はしてません」
「貴様は信用ならん、顔を見せろ」
「えっ………っ」
伽耶の顔を両手で包み込み、視線を強引に合わせた。
「………っ」
潤んだ瞳に、潤んだ唇で俺を見る伽耶に我慢も限界を迎えた。
「貴様が俺の腕からすり抜けるように落馬した時には肝が冷えた」
貴様に…今すぐ触れたい。
「心配かけて…ごめんなさい」
触れたい…
「あの…」
甘い香りに誘われる様に、伽耶の額に口づける。
「……っ、それよりも手当てを先に…ん、」
次は頬に、
「だから…」
「伽耶」
「っ……」
その唇を、寄越せ……っ!
「嫌なら拒め」
そう言いつつも、拒む事など許さぬ気持ちで顔を近づけた。
「………」
俺を見つめていた伽耶の目がゆっくりと閉じていく。
奴が俺を受け入れたと…この時の俺は思い、
「………っ、んっ」
奴の唇を奪った。